著者
中野 貴元
出版者
日本会計史学会
雑誌
会計史学会年報 (ISSN:18844405)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.39, pp.17-30, 2020 (Released:2022-07-05)

江戸幕府が倒れたのち,天皇を中心とする近代国家化を目指した明治政府にとって,中央集権体制を確立し,迫りくる西欧列強の脅威に備えることが急務であった。その新政体の結集する核として天皇が据えられるが,皇室が保有する財産に対していかに会計を行うかが問題となる。明治期当初においては政府会計の一部とされていたものが,その後政府会計とは別に皇室会計制度を制定し,独自の発展を遂げた。本稿はこれら皇室会計の制度の変遷を概観し,その内容を明らかにする。
著者
岡嶋 慶
出版者
日本会計史学会
雑誌
会計史学会年報 (ISSN:18844405)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.40, pp.32-49, 2022 (Released:2023-11-04)

本稿は,比較史的なパースペクティブのもとで日本における独立監査に関するプロフェッション形成を歴史的に叙述することを通じて,日本の監査プロフェッション化の独特性を明らかにすることを企図している。わが国の公認会計士制度は,第二次大戦後,占領下において,証券取引法に基づいて提出される財務諸表の監査証明の担い手としての新たな役割を果たすために創設されたものである。本稿では,プロフェッションと国家との関係性に焦点を当てながら,公認会計士制度が創設されたプロフェッション形成プロセスを描写する。プロフェッションの比較史的観点から,プロフェッションへの参入および懲戒のあり方をめぐる規制のモード,および,プロフェッション団体の会員制のあり方とその国家との関係の2点に絞って議論・分析を行なう。最後に,そこから得られるインプリケーションとこの研究のもたらす意義に関する結論を述べる。
著者
山口 不二夫
出版者
日本会計史学会
雑誌
会計史学会年報 (ISSN:18844405)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.40, pp.16-31, 2022 (Released:2023-11-04)

本稿は19世紀初頭の東アジアで活躍した英国商人Country Traderの帳簿のデータの検討を行う。前稿で1799年から1814年までの帳簿とそのデータの変化を検討した。本稿は 1815年から1825年までの間の変化の鍵となる1819-20年のLedger, Journal, Cash Bookの構造と, この間の帳簿の変化と盛り込まれたデータの変化さらに経営の変化を明らかにした。本商会では初期にはLedgerのみが残されている。1819年頃までにLedger, Journal, Cash Bookの3帳簿制となり役割が分割された。1799年から1825年にかけて総資本は4.5 倍に増加,出資額は18万ドルから50万4千ドルへ増加する。この期間の平均の出資金利益率は18%程,自己資本比率は2割程で, 総資本利益率は4%程である。収入は当初Interests,Commissions,Factoryが中心であった。すでに1812-13年期にはFactoryを売却し,Raw Silkの取引やOpium取引が主な収入となっていた。これは商会のビジネスが仲介あるいは取引相手に資金を貸出して金利を稼ぐビジネスを基本にしているが,自分でリスクをとって商品を購入販売するビジネスを取り入れたためである。ただ1825年まで棚卸資産の金額はそれほど大きくないので,手数料ビジネスや資金を貸付けるビジネスを基本にしていたと推察する。
著者
篠藤 涼子
出版者
日本会計史学会
雑誌
会計史学会年報 (ISSN:18844405)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.39, pp.45-57, 2020 (Released:2022-07-05)

1895(明治28)年,学校教育制度において,女子の教科内容として家計簿記という用語が公的に使用された。本稿は,俸給生活者に対する家計簿記書の展開に焦点をあて,明治期の女子に対する教科書との関わりから検討をした。結果として,明治初期,台所の支出をその収入の範囲内で収めることを目的としていた出納教育は,家計簿記という用語が公的に使用された1895(明治28)年以後は,女子の職務として家計全般を記録する家計簿記へと展開したことが明らかとなった。明治期は,簿記の普及期にあり,簿記知識人によって最も早く家計簿記と表題する著書が出版された。家計簿記書は,簿記知識の普及を目的に,複式簿記を用いて家計全般を記録対象としていた。家計簿記を家計全般の記録と定義した場合,明治後期における日本の家計簿記書は,家計全般の収支管理を女性が記帳することを啓蒙した。そ して家計簿記の内容は,家長からの割り当て分を妻が記帳する収支計算から,教育機会を得られた社会階層や当時の社会的経済的状況から判断する限り,社会的に地位の高い夫の家計では財産計算へと展開した。
著者
山口 不二夫
出版者
日本会計史学会
雑誌
会計史学会年報 (ISSN:18844405)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.39, pp.31-44, 2020 (Released:2022-07-05)

本稿は19世紀初頭の東アジアで活躍した英国商人Country Traderの帳簿のデータの検討を行う。前稿では,すでに1799年の帳簿組織について検討している。本稿は1799年から1814年までのLedgerのなかのデータの変化と帳簿の変化を明らかにする。本商会は4人で始まったpartnership企業であり,最初の2期は剰余金を残さないようにProfit and Loss 勘定のなかで利益をpartner に分配した。ところが業績の低下にともないMagniacが経営に参加する中で,Commissionsやそれにともなって発生したHouse ExpensesをProfit and Loss 勘定に入れる前に分配してしまった。さらにMagniacがpartner に加わってからはLedger が2部作成され,資産負債で構成されたBalance勘定がStock勘定にとって代わり,剰余金が計上されるようになる。また1811-12年期からはJournalも作成されるようになる。最初,このpartnership会社の収入は,Interests,Commissions,Factory からであった。しだいにOpium取引が増加し,1812-13年期にはFactoryを売却し,Raw Silkの取引やOpium取引が主な収入となる。とくに初期にはInterestsで儲ける仕組みになっていたが,1808年以降は金利の支払いのほうが多い期もあった。Commissionsと資金を貸すことでの金利で儲けるビジネスから,実際にOpiumとRaw Silkの取引で儲けるビジネスに変貌しつつあるのである。
著者
渡邉 泉
出版者
日本会計史学会
雑誌
会計史学会年報 (ISSN:18844405)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.40, pp.1-15, 2022 (Released:2023-11-04)

会計学の損益計算構造を支える複式簿記は,13世紀初頭のイタリアで,公正証書に代わり 取引記録の信頼性を確保するための文書証拠として誕生する。14世紀半ばには,損益計算機 能を完成させ,世界の覇権の推移に伴い,フランドル,オランダを経て19 世紀初めのイギリスで会計学へと進化する。その過程で,自らの第1義的機能を記録・計算から情報提供へと変容させる。 21世紀を迎え,新自由主義経済体制のもとで株主資本主義が市場を席巻すると,会計学の 情報提供先も一般の株主から1部の大株主に転換され,彼らへの目的適合性・有用性という名のもとで会計の本質である検証可能性に裏打ちされた信頼性が大きく後退していく。 こうした状況下で,会計は,信頼性回復のための手法として法的規制と違反者への罰則を強化する。しかし,どのような強制力を伴う規制でも,必ずや抜け道が考え出される。失われいく信頼性回復のための最後の砦は,民主的な教育に支えられた確固たる倫理観と道徳観にある。それ故本稿では,会計学における両者の重要性について論究することにした。
著者
小川 華代
出版者
日本会計史学会
雑誌
会計史学会年報 (ISSN:18844405)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.39, pp.1-15, 2020 (Released:2022-07-05)

イギリス産業革命期主要産業の1つである綿工業は,短期間で大工場制へと成長した。しかし,綿工業の原価管理の手法については,これまでの研究では不十分であった。そのような中で,本稿では,綿工場の最初の管理書として評価されているが,これまで詳細な研究が行われてこなかったJ. Montgomeryの経営管理書の検討を行った。経営管理書では,これまでの綿工場経営の問題点を整理し,有用な管理手法の提案が行われている。この経営管理書の1番の功績は,イギリス産業革命期当時の,秘密性の高かった内部管理の手法を公開することにより,綿工業全体の発展を促したことである。大工場となった綿工業において,利益の最大化を追求するためには,原材料,製造費用,人材などの管理を正確に行うことが重要である。正確な管理を行うためには,知識が必要であり,J. Montgomeryはその知識の提供を経営管理書によって行った。経営管理書では,特に原価計算の重要性について着目しており,綿工業の特徴を反映させた原価計算の萌芽形態を示している。