著者
堤 英俊
出版者
旭出学園教育研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

<研究局的>ある一人の発達障害生徒(Z君)の自己語りの分析から、特別支援学校中学部に通う発達障害生徒の自己の様態に関する仮説を生成するとともに、その自己語りが生み出される文化的・社会的文脈について考察することを目的とした。<研究方法>保護者・本人の了解のもと、Z君との個別指導の時間の一部で、インタビュー・データを収集した。エピソードを引き出すことを念頭に、本人の特性を踏まえたライフストーリーワーク教材(ワークシート等)を作成した。データ収集は、主にICレコーダーを使って行った。録音データは、文字起こし作業を行った上で分析材料とした。<研究成果>Z君は、以前在籍していた小学校(通常学級)と現在在籍する中学校(特別支援学校中学部)では学習内容の難易度が異なる(小学校の方か難しい)とし、小学校(通常学級)への在籍には「学力(本人の意味する)」による条件があると語った。ただし、現在在籍する中学校(特別支援学校)の同級生の約半数は「学力(本人の意味する)」の条件をクリアしており、少なくとも自分は「ゆるい学校が好き」という理由から現在の中学校を選択し入学してきたと語った。こうした語りから、Z君において小学校通常学級と特別支援学校中学部は、異なる性質を持つ場として認識されつつも、分離した場としてではなく、質的に連続する場として認識されていることが理解できた。そして、その背景要因として、特別支援学校が障害児の学校であることが意図的に伏せられていること、本人の見なす「幼馴染」「いじめっ子」「自分より頭のいい人」「おしゃべり相手」が両校に共通して存在していることなどが関係していることが分かった。