- 著者
-
山田 昇司
- 出版者
- 朝日大学経営学会
- 雑誌
- 朝日大学経営論集 (ISSN:09133712)
- 巻号頁・発行日
- vol.32, pp.31-58, 2018-03
チャールズ・チャップリンが作成した映画『独裁者』(1940)には最後に6分ほどの長さの演説がある。そのすばらしい内容と映像が使えるという利点に惹かれて、これまで多くの英語教師がこの「結びの演説」を教材として採用してきた。ただその実践者はこの演説を音声指導においては「暗唱」用として使うことが多かった。それに対して寺島(1997a)は「リズムよみ」→「表現よみ」→「スピーチ(暗唱)」というタスク配列を提起した。というのは、学習者に最初から暗唱を要求すると、それを覚えることにエネルギーを費やすことになり、仮にそれが出来たとしても、演説の中の「反復」や「対比」が生み出す響きのよい音韻性や演説全体が作り出す「緩→急→緩」といったリズムの心地よさに気づかないからかなめだ。いやそれどころか、肝心要の、英音の基本構造「リズムの等時性」を学ぶことすらできなくなる恐れがある。寺島美(1987)や寺島(1997a)には上記配列の「表現よみ」までで止めて成功した実践が記録されているが、筆者はこれまで全体を「表現よみ」させる追試を行ったことは一度もなかった。本論はその実践をはじめて行うに先立って筆者がどのようにこの教材を準備して授業計画を組み立てていったのかをまとめたものである。まず始めに以前に用いた読解プリントを見直す中で、語義ヒントの与え方や、英文構造を視角化する記号のひとつである四角(関係詞や接続詞)のつけ方などについて考察した。次に寺島(1996)で示されている「リズム記号」を生の音声と比較して検証した際に気づいた点について私見を述べた。本論の後半では「表現よみ」を成功させるための実践的手順を先述の2つの文献やその追試を行った新見(2013)を引用しながら検討した。最後に、どうして今回、筆者がこの演説を教材として取り上げることになったのかについてその経緯を記述した。チャップリンにこの映画のつくらせる動機となったのは欧州でのアドルフ・ヒトラーの抬頭であったが、その思想的背景である「優生思想」についても若干の歴史的な考察を行なった。なお本論にはこの実践を終えてから総括した続編、山田(2018)がある。併せて読んでいただきご意見、ご批判をいただけるとありがたい。