著者
村田 康常
出版者
柳城幼児教育・保育研究会
雑誌
柳城こども学研究 = Ryujo Child Studies
巻号頁・発行日
no.4, pp.53-81, 2021-03-20

本論文の目的は、西洋形而上学の伝統のなかで絶えず論争の的となってきた一元論と多元論の葛藤、つまり世界を一と見るか多とみるかという立場の相克に対して、現代形而上学のひとつの典型といえるホワイトヘッドの思弁的な宇宙論がどのような立場をとっているかを検討し、世界を一と見る立場も包摂した彼の多元的な宇宙論の特徴を明らかにすることである。現実世界を新しさへの創造的前進のプロセスと見るホワイトヘッドの形而上学的宇宙論では、創造的な世界における偶然性や可能性が重要な主題となる。本論文では、ホワイトヘッドの形而上学的宇宙論体系において究極的なものの範疇とされる「多」と「一」と「創造性」をめぐる思弁を辿って、偶然性や自由と必然、可能性と現実態などの諸様相によって描き出される多元的宇宙のあり方を描き出すことを試みた。彼の形而上学的宇宙論では、現実世界の多様性に可能世界の多様性が重ねられて、「多が一と成り、その一が多に増し加えられる」という創造的世界の創造的なダイナミズムが考察されている。本論文では、このような可能世界論と多元的宇宙論の交錯するホワイトヘッドの形而上学的宇宙論の特徴を、彼の「命題」あるいは「理論/観想」に関する思弁的な考察の読解を通して検討し、多元的宇宙がそのつど新しく生成する一なる存在のうちに包摂されつつ、その一が多なる世界を構成する一要素となるという「多」と「一」との創造的なダイナミズムの中で、実現されなかった可能世界の多様性もまた実現された一なる要素とその多なる現実世界の中に様態的に包摂されていることを示した。