著者
白川 太郎
出版者
比較都市史研究会
雑誌
比較都市史研究 (ISSN:02871637)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.17-43, 2019-12-20 (Released:2020-02-21)

後期中世の北中部イタリアには、数多くのカリスマ的な神秘体験者が出現し、生前から「聖人」とみなされた。本稿はマルゲリータ・ダ・コルトーナ(Margherita da Cortona, 1247-1297)を取り上げ、彼女に対する地域的な聖人崇敬の形成過程を分析する。マルゲリータは都市コルトーナの贖罪者であり、公然たる日常的な神秘体験によって、生前から「聖人」とみなされていた。彼女に対する死後の崇敬を推進したのは、都市共同体の霊的一体性創出・統治体制の正統化を目指すコルトーナの都市政府であった。しかし神秘体験の主観的・内面的性質のため、マルゲリータの「聖性」には常に疑念がつきまとった。彼女の生涯を描く伝記は、この疑念に対する応答として執筆されている。本稿が検討した事例は、後期中世における托鉢修道会のヘゲモニーおよび聖人伝のイデオロギー性を強調する従来の研究に対し、アクターおよび枠組としての都市の再評価を促すものである。