著者
伊藤 勝千代
出版者
水産庁日本海区水産研究所
雑誌
日本海区水産研究所研究報告 (ISSN:00214620)
巻号頁・発行日
no.39, pp.p37-133, 1989-02
被引用文献数
5

1983年6月~'85年9月の約3カ年間の海洋生産力調査と1986年8月~9月の深海性重要甲殻類分布調査の一環として,そりネットを使用し,新潟県中・下越及び佐渡島周辺沿岸の98定点で,メガロベントス採集調査を行い,混獲物として得られた貝類試料を調べ,資料を整理した。これらの資料に基づき,この海域の貝類相について,次の知見を得た。1)期間中に計385種の貝類が得られ,それらの種類リストと採集定点,水深範囲及び出現点当たり生貝・遺骸別個体数を示すとともに,多数の種名未確定種があるのを考慮し全種の写真を示した。2)採集物の構成内容は,腹足類224種(58.2%),堀足類7種(1.8%),斧足類154種(40.0%)であった。3)既往の貝類分布に関する諸報告を参考に検討した結果,これまで未確認であった腹足類52種,堀足類1種及び斧足類33種の計86種が,新潟県下の沿岸にも生息分布することが明らかになった。また,このうちコウダカチャイロタマキビガイ・セイタカハナヅトガイ・ツヤハナゴウナ・サガミシタダミ・オニカゴメガイ・Anacithara (A.) moeshimaensis・ヤスリコトツブ・ロウイロカゴメイトカケガイ・エドイトカケガイ・Turbonilla (Sulcoturbonilla) quantona・ブドウノタネガイ・ヨコヤマミミエガイ・オオマルフミガイ・チゴバカガイ・オトヒメカガミガイの15種は,日本海側での生息分布がこれまで確認されておらず初記録となった。 このほか,日本海を模式産地として記載されたものの,その後の採集記録が見当たらないConradia cf. clathrata,Trichotropis cedonulli及びレイシツボの3種について,再発見地の採集状況について述べた。4)種類数分布及び1種当たり個体数分布を示し,それぞれの多獲地点を述べた。しかし,多獲地点と深度及び海底底質との間には明瞭な相互関係が見出せなかった。5)この海域の優先種として,マメヒパリガイ・ナミジワシラスナガイ・モトリニシキガイ・オオシラスナガイ・オオキララガイ及びムチヅノガイの6種をあげ,それら各種の量的分布を示した。
著者
河村 智志 平井 光行
出版者
水産庁日本海区水産研究所
雑誌
日本海区水産研究所研究報告 (ISSN:00214620)
巻号頁・発行日
no.43, pp.p83-92, 1993-03

日本海の佐渡島周辺海域におけるスルメイカ北上期の漁獲量の経年変動に果たす海況要因の役割を明らかにするために,1980~1991年の日本海スルメイカの資源量指数と50m深における暖・冷水域の分布状況を説明変数とした重回帰解析を行い以下の結果を得た。(1)北上期漁獲量の経年変動は,資源量指数単独の場合より海況変動要因を加えた方がよく説明され,漁獲量変動に果たす暖水域の動向と冷水域の接岸状況の重要性が確認された。(2)北上期漁獲量変動(Y)は,資源量指数変動(X1),冷水域の東西方向の変動(X3),暖水域の南北方向の変動(X4)に対して最も重相関関係が高く(r=0.93),次式のような重回帰式が得られた。Y=-36.96+136.18X1-10.16X3+11.81X4 (3)回帰式に用いた2つの海況要因のうち,能登半島から佐渡島周辺海域に及ぶ暖水域の北上は,スルメイカ魚群の補給機構,佐渡島付近への冷水域の接岸は魚群を滞留させる障壁効果に関わる海況要因であると評価することができる。
著者
加藤 史彦 山洞 仁 野田 栄吉
出版者
水産庁日本海区水産研究所
雑誌
日本海区水産研究所研究報告 (ISSN:00214620)
巻号頁・発行日
no.33, pp.p41-54, 1982-12

日本海におけるマスノスケの漁獲記録は,現在までにMASON(1965),本間・水沢(1966),深滝(1968a,b),小山ら(1978),小山(1979),HONMA・KITAMI(1980)および今野(1980)により合計13例が報告されている。今回,筆者らはそれ等の記録以外の13尾の漁獲事例を収集し,数尾の標本の生物測定を行った。そして,日本海に来遊するマスノスケの起源等に関して若干の考察を加え,以下の結論を得た。1. 1974年から1976年の間に,新潟県佐渡島において,4尾のマスノスケの漁獲記録が新しく確認され追加された。2. 1979年と1980年にはそれぞれ6尾のマスノスケが漁獲された。これは日本海における一年間のマスノスケの漁獲尾数としては最高の数である。3. 1979年5月31日の福井県河野村大谷における漁獲記録は,日本海沿岸におけるマスノスケの分布の南限を書き変えたことになる。4. 1979年および1980年において,マスノスケの漁獲位置は時期を追って,地理的に北から南へ移る傾向があり,魚群の南下移動が想定された。5. 漁獲されたマスノスケはいずれも体重が10kgを超す大型個体であった。1979年5月4日に山形県加茂で漁獲された全長108.3cm,体重16.75kgの個体,および同年5月16日に新潟県瀬波で漁獲された全長101.7cm,体重15.6kgの個体は,いずれも淡水域で1年,海洋で4年を過した1.4年魚であった。また,翌年5月8日に,同じく山形県加茂で漁獲された全長114.5cm,体重20.0kgの個体は1.5年魚で,前年に漁獲されたマスノスケと同一年級群であった。6. 1963年に太平洋側の茨城県沿岸でみられた冷水域の拡大とマスノスケの多獲現象との対応は,日本海ではみられなかった。7. 本州日本海沿岸に来遊するマスノスケの起源河川は,鱗相等から判断すると,日本海に面した大陸側の低緯度地方に存在すると推定された。