- 著者
-
田中 佐知
- 出版者
- 神奈川県警察科学捜査研究所
- 雑誌
- 奨励研究
- 巻号頁・発行日
- 2010
【目的】犬は、ヒトの生活の中でペットとして飼われているだけでなく、盲導犬や救助犬をはじめ、様々な場面で使役犬として活躍しでいる。いろいろな使役に適するように品種改良を重ねられてきた結果、現在は400種以上の犬種が存在している。しかし同一犬種内でも使役犬になれる個体と、なれない個体がいるのが事実であり、ヒトのニーズに応えていない。そこで、犬の気質(個性)に関連しているとされている脳内神経伝達物質であるドーパミン受容体D4 (DRD4)及び5-Hydroxytriptamine Receptor (5-HTR)の1Bの各遺伝子と個体の行動との関連を調べることで、使役に適した個体の選別につながると考えた。【方法】牧羊犬として品種改良されたボーダーコリー種を用いた。一般家庭で飼われ、牧羊犬の訓練を受けている個体の行動を一定時間観察し、羊に対する集中力(注視率)を調べた。また、DRD4遺伝子については、nested-PCR法により遺伝子型を調べ、シークエンスによる塩基配列分析を行った。5-HTR1B遺伝子については、SNaPshot法を用いてSNPsを調べた。これらの結果から、注視率と各遺伝子型及びSNPsの関係を統計学的に解析した。【成果】ボーダーコリー種において、DRD4遺伝子では、3種類の対立遺伝子(435, 447a, 498bp)が検出された。それらから得られた遺伝子型はいずれも注視率との間に有意差が認められなかった。447aアレルでは、本来存在する2つの塩基置換のうち1つが存在していなかったが、アミノ酸の置換は認められなかった(非同義置換)。5-HTR1B遺伝子では、既報のとおり6つのSNPsが確認され、そのうち2つ(G246A, C660G)において、注視率との有意差が認められた。また、羊に初めて対面した年齢が1歳未満の個体は、1歳を過ぎてから初めて羊に対面した個体よりも高い注視率を示した。以上のことから、牧羊犬の気質に影響を与えるものとして、遺伝学的な素養も加味されるが、できるだけ早い時期に羊に対面させることも必要であると考えられた。