著者
乗峯 絵理
出版者
茨城県警察本部
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

【研究目的】農薬を用いた中毒事件・事故のうち、約3分の1を占める有機リン系農薬の簡易検査キットを開発した。【研究方法】キットは検知管方式とし、炭酸水素ナトリウム層、反応層、保護層の3層構造とした。これまでの簡易検査キットでは二段階で行われていた反応を一段階で行うため、反応層にはアルカリ剤のトリスヒドロキシメチルアミノメタンとニトロベンジルピリジンを両方コーティングした担体を入れた。炭酸水素ナトリウムは反応促進のために入れ、保護層は加熱時の液体の漏洩を防ぐために付加した。使い方は、検知管の両端をカットして反応層が湿る程度まで試料を吸引し(約100μl)、2分間ドライヤーで加熱して反応層の色を確認し、反応層が青~紫に呈色すれば陽性と判断する。反応を確認するまでにかかる時間は3分程度であった。本キットは農薬の原液、それを薄めた水溶液および法医学的試料に対して使用することができた。対応できる法医学的試料は尿、血清、胃内容物、吐瀉物で、胃内容物や吐瀉物にも胃液を考慮したpH調製を行うことなく使うことができた。色が濃い試料、粘性がある試料等は水で希釈することでキットの発色を確認することができ、全血、溶血試料、希釈しても色が濃い試料は、有機溶媒による抽出を行えば発色の確認が可能であった。なお、これらの試料の簡易検査は、鑑定の一環として行った。ドライヤーや電源がない場合には、熱源としてライターを使用することも可能であり、その場合はさらに短時間(20秒以内)で発色が確認できた。有機リン系農薬と同様の中毒症状を示すカルバメート系農薬では検知管は呈色せず、他の農薬に対して使用しても有機リン系農薬と同様の呈色をするものはなかった。【研究成果】本簡易検査キットは、使用にあたり特別な器材が必要なく、短時間で結果が得られるため、検視や救急医療の現場での使用に適していると考えられる。
著者
古川 猛
出版者
茨城県警察本部
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014

この研究は、機器による筆跡画線の質の測定、及び定量的な評価方法の開発を目的とした。筆跡には、画線の幅、濃淡、曲率、筆圧痕の深さ等のさまざまな指標が含まれている。しかし、実際の法科学における筆跡鑑定ではそれらを定量的に評価する手法、機材が開発されておらず、鑑定人の感覚に頼った状態が続いている。そこで、筆跡の輪郭線を信号と捕らえて、ウェーブレット分解により高次から低次に渡る周波数成分を検出した。その後、得た特徴量を指標として筆跡の輪郭線の滑らかさ、粗雑さを評価した。まず、被験者10名により縦、横、右下がり、左下がりの4方向別の短い線分をタブレット上に置かれた用紙に10回繰り返して記載する実験を行った。次に、筆跡画像を光学解像度5400dpiでフラットベッド型イメージスキャナにより撮影した。その画像に対して前処理として二値化、輪郭線抽出を行った。以上の輪郭線の差分を計算し、波状のプロファイルを得た。同プロファイルを5段階のスケールを使用したウェーブレットにより処理して分解プロファイルを得た。10名の被験者が10回繰り返して記載した4方向別の線分から得られた5段階の分解プロファイル、計2000個を評価するために、主成分分析を用いてデータの次元を圧縮した。識別には、部分空間法を用いた。特徴量(固有値)の分布の線形性、及び非線型性を考慮した筆者機別実験を行った結果、半数のデータで正しい識別結果を得た。