著者
佐藤 正衛 竹内 正彦 山端 直人 平田 滋樹
出版者
関東東海北陸農業経営研究会
雑誌
関東東海北陸農業経営研究 = Kantō Tōkai Hokuriku journal of farm management (ISSN:21897646)
巻号頁・発行日
no.107, pp.55-61, 2017-02

わが国では、野生鳥獣による農業被害や自然生態系への影響が深刻化しており、農作物被害額については、ここ十数年、年間200億円前後で推移している。鳥獣被害の深刻化、広域化の背景として、江成は、農山村の体力低下と野生動物との関わりの変質化を指摘している。具体的には、過疎化、高齢化による耕作地、樹園地の放棄、撤退、狩猟者減少等の体力低下が生じた。これに加え、薪から石油、牛馬から自動車へといった生活様式の変化に伴う里地利用の事実上の消滅から、野生動物が集落内の環境を利用するようになり、また、野生鳥獣の経済的価値も低下し、人との距離感、捕獲指向が変化した。その延長での農地侵入、被害の増加、拡大という構図が考えられることから、被害対策としては、野生動物と人との距離感を広げる環境整備と確実な技術と実施方策に基づく被害防除に加え、加害個体の捕獲の3つを連携させた「総合対策」が重要である。こうしたなか2007年に成立した鳥獣被害防止特別措置法にもとづき市町村が主体となって被害防止対策に取り組まれてきたものの鳥獣被害を軽減させることができなかったことから、さらなる対策の強化が必要とされた。そこでの捕獲目標は、シカ、イノシシの生息頭数を平成35年度までの10年間で半減させるというものであり、これを実現するためにICT等を用いた大量捕獲技術の導入や捕獲鳥獣の食肉加工利用の推進を図ることとされている。そして、これら対策の実施主体は市町村に設置される鳥獣被害対策実施隊であることから、今後は実施隊への支援策の拡充が重要な課題であるといえる。その具体策のひとつとして新しい捕獲技術導入の採否や捕獲鳥獣の食肉加工利用の適否を判断するための情報の提供があげられる。桑原・加藤は、イノシシ対策としてのワイヤーメッシュ柵設置コストを試算し政策支援額の目安を提示した。しかし捕獲は分析対象とされておらず、今後提供されるべき支援情報として必ずしも十分ではない。そこでこうした課題に応えるため、本稿では、まず捕獲の技術体系データの構築方法を検討し、次に手順にそってデータ構築を実施する。そして、構築データを用いて従来の狩猟方法との比較分析を実施する。さらに、分析結果をふまえて、主に実施隊への有用情報の提供可能性の観点から技術体系データの利活用方法を考察する。