著者
小宮 正弘 Masahiro KOMIYA
出版者
静岡産業大学国際情報学部
雑誌
静岡産業大学国際情報学部研究紀要
巻号頁・発行日
no.5, pp.41-52, 2003

10年にわたるフランス革命期はボナパルトの軍事独裁政権の誕生をもって幕を閉じ、やがて帝政が開始される。本稿はまずその革命に源を発するフランス共和国、ついではナポレオン帝政をめぐるヨーロッパ国際環境の態様から始める。そしてフランス政体の権威化の不可避的必要性を集中的に示すものとして、ナポレオンにより選定された紋章に着目、そのエンブレム(象徴的文様)に古代エジプト王権のしるしを認定することで、ナポレオンの反フランス王政、対ヨーロッパ諸国への抵抗表現を示す。ナポレオンにより採用されたエンブレムは蜜蜂であり、筆者は蜜蜂のエンブレムのフランスにおける系譜を歴史学的にたどる一方、フランス王家代々の紋をなした百合のエンブレムについても考察、それら二つのエンブレムが古代エジプトにおいて対比的に扱われた二つの王権のシンボルであったことを説く。最後に、古代エジプト文明とナポレオンの知見との現実的接点として、彼みずからの18世紀末のエジプト遠征、それに先立ってエジプト王権に関する予備的知識を与えたと思われる諸資料、遠征に随伴した第一級の学術団の現地探査、その主たる成果である大冊大著『エジプト誌』23巻通覧の、諸報告を行い、本稿試論の補助学的操作をはかろうとする。
著者
天野 利彦 Toshihiko AMANO
出版者
静岡産業大学国際情報学部
雑誌
静岡産業大学国際情報学部研究紀要
巻号頁・発行日
no.5, pp.79-84, 2003

マルグリット・デュラスの小説『モデラート・カンタービレ』は、記号学的手法で読み解いてみると、その特徴が明確になる。小説の中では、いくつかの場所と事物が主題に対して特権的な役割を演じている。それらはピアノのレッスン場、カフェ、主人公の屋敷、海岸通りであり、また赤い色、木蓮の花などである。モチーフとなっている殺人事件の血の色に導かれて、主人公のアンヌが平穏な日常を抜け出し、破滅を予感させる恋の可能性を試みるありさまが、特異な「トポス」と象徴とを用いて小説世界のうちに描かれている。