著者
鈴木 敬明
出版者
静岡県工業技術研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

就労者の生体リズムの乱れの低減を目的として、眼内に入射する光の分光強度をサングラス様のレンズフィルターを装着することで制御するために、生体リズムに影響する波長と視認性を確保するための波長をバランスよく透過するフィルタの開発を行い、その効果を実験的に検証した。生体リズムに影響を与える530nmを中心とする波長の光を遮光し、かつ、サングラスの安全規格を定めたJIS T7331(ISO14889)の規定を満足するレンズフィルターの分光透過率分布を解析的に明らかにした。算出した分光透過率を持つレンズフィルターを誘電体多層膜蒸着にて試作し、メガネフレームに取り付けてサングラスとして被験者が使用できる試作品を開発した。開発品の効果に対する検証実験として、開発品を装着しない場合、装着した場合、開発品と同じ視感度透過率を有するND(Neutral Density)タイプのサングラスを装着する実験を各3日間行い、尿中のメラトニン代謝物、心拍変動、睡眠・活動量を計測した。、その結果、定性的ではあるが開発したフィルタが睡眠に与える影響が確認された。加えて、装着時に問題となる視認性について、交通信号の表示が明確に認識でき、昼間の運転時に使用できる可能性を確認した。色覚特性(色弁別特性)については、色覚特性測定実験を行ったところ、B~G、Y~Rの色域で弁別機能の顕著な低下が認められた。この点については、今後、改善の余地があると考えられる。
著者
櫻川 智史
出版者
静岡県工業技術研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

熱中症とは、温度と相対湿度が高い場合に起こる様々な病的症状の総称である。これまで、熱中症はスポーツ活動や労働作業時の問題として取り上げられてきたが、近年では日常の生活活動時にも多く発生している。特に、高齢者は若年層に比べて体温調節機能が低下していることや、水分をあまり補給しないことで脱水症状に陥りやすく、日常生活の中で熱中症を発症するケースも多く見られている。しかし、高齢者施設での熱中症の危険性を数値で評価している事例は少なく、具体的な問題点や対策法も提示されているとはいえない。本研究では、夏期暑熱時の高齢者施設における熱中症の危険性に着目し、気温(乾球温度)、相対湿度、黒(グローブ)球温度等を用いた暑さ指数(WBGT)を指標とし、木造および鉄筋コンクリート(RC)造施設内の温熱環境を評価した。評価対象は、静岡市内の特別養護老人ホームとした。当該施設は、木造平屋建とRC造4階建により構成される。夏期暑熱時(7~9月)の各棟共用部分における測定の結果、RC造棟では、冷房の強弱により急激に温湿度が変化した。木造棟では、空調による制御が比較的容易であり、温湿度やWBGTの急激な変化は認められなかった。しかし、空調をしないと木造でも熱中症の危険性は高くなり、注意を要した。空調の使用で熱中症の危険は回避される一方、冷房を嫌う高齢者も数多く観察された。特に、リウマチ罹患では冷風による痛みを危惧し、毛布・靴下の着用や、極端に冷房を避ける傾向が認められた。高齢者と若年者では単なる温度感覚差のみならず、生理的な特性(発汗機能など)も大きく異なるため、高齢者の熱中症の危険性は増大する。夏期暑熱時においては、室内であっても高齢者の特性に配慮した熱中症の対策が必要となる。また、年間を通した温湿度計測においても木造棟はRC造に比べ湿度変化が小さかった。
著者
中野 道彦
出版者
静岡県工業技術研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

イムノクロマト法は、簡便であるにもかかわらず、特異性が高く正確な検出方法である。そのことからベッドサイド診断に適した方法として、近年、重要性が高まっている。一般に、イムノクロマト法は、抗原-抗体反応に伴って反応試験紙上の特定の場所に金コロイドが集積し、その集積による赤紫色の呈色を目視で判断する。このとき、目視可能な呈色は、試験片のごく表層に集積した金コロイドのみを反映しているに過ぎないため、厚み方向の集積量を判断に生かすことができていないといえる。そこで、厚み方向全体にわたる金コロイドの集積を計測することで、イムノクロマト法を高感度化することを試みた。模擬試料として、C反応性タンパク質(CRP)を検出するイムノクロマト法キットを用いた。金コロイドを測定するために、試験紙上の金コロイド集積部を上下から挟み込むようにして設置する電極を作製した。異なる濃度のCRP溶液をそれぞれキットに添加したあと、金コロイド集積部を、作製した電極で挟み、その電極間の静電容量を測定した。対照実験として、金コロイドの集積を反射光強度で測定する光学測定器でも同様に測定した。その結果、反射光強度の場合は、測定下限がCRP量0.5ngであったのに対し、今回作製した電極では、0.1ngであった。反射光強度測定は目視と同程度であるため、今回作製した電極を用いることで、目視よりも高感度に測定できるようになったといえる。一方で、金コロイドの集積を測定する新しい方法として、微小電極の使用についても試みた。ガラス基板上に微小電極(電極間距離:約30μm)を作製し、その電極間に金コロイドを集積させて、電気抵抗および静電容量を測定した。金コロイド溶液を純水で希釈して、その希釈率に応じた電気抵抗/静電容量を測定したところ、いずれの値も金コロイドの希釈率に依存して変化した。