- 著者
-
櫻川 智史
- 出版者
- 静岡県工業技術研究所
- 雑誌
- 奨励研究
- 巻号頁・発行日
- 2009
熱中症とは、温度と相対湿度が高い場合に起こる様々な病的症状の総称である。これまで、熱中症はスポーツ活動や労働作業時の問題として取り上げられてきたが、近年では日常の生活活動時にも多く発生している。特に、高齢者は若年層に比べて体温調節機能が低下していることや、水分をあまり補給しないことで脱水症状に陥りやすく、日常生活の中で熱中症を発症するケースも多く見られている。しかし、高齢者施設での熱中症の危険性を数値で評価している事例は少なく、具体的な問題点や対策法も提示されているとはいえない。本研究では、夏期暑熱時の高齢者施設における熱中症の危険性に着目し、気温(乾球温度)、相対湿度、黒(グローブ)球温度等を用いた暑さ指数(WBGT)を指標とし、木造および鉄筋コンクリート(RC)造施設内の温熱環境を評価した。評価対象は、静岡市内の特別養護老人ホームとした。当該施設は、木造平屋建とRC造4階建により構成される。夏期暑熱時(7~9月)の各棟共用部分における測定の結果、RC造棟では、冷房の強弱により急激に温湿度が変化した。木造棟では、空調による制御が比較的容易であり、温湿度やWBGTの急激な変化は認められなかった。しかし、空調をしないと木造でも熱中症の危険性は高くなり、注意を要した。空調の使用で熱中症の危険は回避される一方、冷房を嫌う高齢者も数多く観察された。特に、リウマチ罹患では冷風による痛みを危惧し、毛布・靴下の着用や、極端に冷房を避ける傾向が認められた。高齢者と若年者では単なる温度感覚差のみならず、生理的な特性(発汗機能など)も大きく異なるため、高齢者の熱中症の危険性は増大する。夏期暑熱時においては、室内であっても高齢者の特性に配慮した熱中症の対策が必要となる。また、年間を通した温湿度計測においても木造棟はRC造に比べ湿度変化が小さかった。