著者
沢山 美果子
出版者
順正短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、仙台藩領内に残された懐胎、出産をめぐる史料を手がかりに、近世民衆の生命観と身体観を明らかにすることにある。またその特色は、1)死胎、流産に関わる死胎披露書という個別の女性たちの妊娠、出産のプロセスにせまる事が出来る史料を手がかりに、女性たちの労働と身体観、そして胎児、赤子の生命観の内実にせまること、2)近年、各地域をフィールドに進展してきた生命観、身体観をめぐる研究に学びつつ、今まで収集した仙台藩東山地方の史料の読み直しも含めて、身体観、生命観を明らかにするという点にある。なお仙台藩の支藩である一関藩のことを含めた検討については別に発表した(研究発表、参照)ので、報告書では、仙台藩領内を中心に、近世民衆の生命観と身体観への接近を意図した。その結果明らかになったことは四点ある。一つは、仙台藩の赤子養育仕法、そして一関藩の育子仕法が人々にとって持った歴史的意味である。妊娠、出産について厳しく管理する懐胎・出産取締りの制度は、むしろ人々の出生コントロールへの意思を意識化させる側面を持っていたという点である。二つには妊娠・出産や堕胎・間引きをめぐる藩・共同体・家族と医者、産婆の関係、とくに人々の堕胎・間引きの要求に応じる民間の医者や産婆の存在が明らかとなった。三つには、流産、死胎、堕胎の方法に関する史料群を読み解くことで民衆の出生コントロールへの意思を明らかにすることができた。四つには、近世後期の診察記録や仙台藩領内に配布された薬を探るなかで、医者の診察記録は民衆の生命観、身体観を探る上での重要な手がかりがあることが明らかとなった。