著者
永野 一郎 吉富 文司 大嶋 俊一郎
出版者
高知大学大学院総合人間自然科学研究科黒潮圏総合科学専攻黒潮圏科学編集委員会
雑誌
黒潮圏科学 (ISSN:1882823X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.130-136, 2010-02

世界的な人口増加にともない食料の需要が増大し、水産資源の安定的な供給が求められている。天然魚に次ぐ供給源である養殖魚に期待が集まっているが、周辺環境におよぼす影響や持続的な餌資源の開拓など、解決すべき問題を多く抱えている。本研究では、生態学的特徴から飼育環境と餌の問題を解決しうる魚種としてピラルクー Arapaima gigas に着目し、将来的な持続型養殖魚としての可能性を検討した。まず、閉鎖型飼育設備での成長率と飼料変換効率を調べたところ、短期間で高い成長率と飼料変換効率が得られた。つぎに、従来の魚粉依存型飼料の代替として植物性タンパク質を含有した餌での成長率を測定したところ、高い成長率を得た。以上の結果から、ピラルクーは閉鎖型循環設備において、魚粉に依存しない餌により飼育することができ、持続型養殖魚種として将来的に人類の動物性タンパク源となりうると考えられた。Aquaculture has attracted a great deal of attention due to ongoing decline in natural fish stocks. However, aquaculture has problems that need to be resolved, such as the impacts of the culture system on the environment, sources and methods of obtaining feed and so on. It said that pirarucu (Arapaima gigas) grow up much faster than other fishes. Therefore, this study investigated the potential of pirarucu as a fish culture species. First, experimental fish were cultured in an enclosed culture system using a commercial feed. Second, fish were cultured using a feed that contained plant protein. The growth rate and feed conversion efficiency of pirarucu were high in an enclosed system. The fish also had an adequate growth rate with the plant protein feed. Pirarucu is a suitable fish species for aquaculture.
著者
佐藤 大紀 加藤 元海
出版者
高知大学大学院総合人間自然科学研究科黒潮圏総合科学専攻黒潮圏科学編集委員会
雑誌
黒潮圏科学 (ISSN:1882823X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.218-228, 2013-03

ニホンカワウソは、生息範囲が山から川、そして海に至るまで広く、生態系において上位捕食者に位置することから保全生態学的に重要な種である。日本で最後にニホンカワウソが確認された高知県の新荘川を対象に、生態学的な観点から現在と過去の河川環境を調べた。現在の河川環境に関しては、源流域から河口域に至る流程の8地点で河川地形や水質などの物理化学的環境、付着藻類や底生動物などの生物相の調査を行なった。過去の河川環境に関しては、文献調査と聞き込み調査を行なった。現在の河川環境は、上流域から下流域にかけて物理化学的環境と生物相に関して、流程に沿った顕著な変化の傾向はみられなかった。水質に関しては、過去から現在にかけてはわずかであるが改善する傾向にあり、水質の悪化がカワウソ絶滅の直接の要因ではなかったことが示唆される。明治初期から昭和初期にかけて乱獲で個体数が減少し、河川内にある堰の改修で主要な餌である魚類が減少した。河川周辺の植林やハウス栽培が原因で、水量が減少しさらなる魚類の減少をもたらした。乱獲に加え、1960年代以降、河川内改修や周辺環境の変化の人為的な3つの要因が重複したことがニホンカワウソの生息環境の著しい劣化を招き、1973年頃の気象災害による巣の破壊が新荘川からニホンカワウソの姿を消した決定的な要因と考えられる。