著者
加藤 元海 見並 由梨 井上 光也
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.77-85, 2015-07-30

地球上における急激な人口増加に伴う食料問題の対策の1つとして、栄養価や生産コストの面から昆虫を利用することが有益であるとの報告書を2013年に国連食糧農業機関がまとめた。現在食べられているのはほとんどが陸生昆虫で、水生昆虫は少ない。しかし、水生昆虫の一部はザザムシや孫太郎虫として日本では食用とされてきた。本研究では、比較的大型で採集しやすい水生昆虫であるヘビトンボ、ヒゲナガカワトビケラ、大型カワゲラを対象に食用昆虫としての可能性を探るため、水生昆虫の生物量や収穫のしやすさを河川において現地調査し、加えて水生昆虫食に対する意識調査を行なった。底生動物の生物量は0.1から7.5g/m^2の範囲で、うち食用昆虫の割合は平均で63%だった。また、生物量と捕獲努力量との間には正の相関がみられた。大型の水生昆虫を効率的に採集するには、降水や水生昆虫の生活史を考慮すると冬から初春に行なうのが適切であろう。昆虫食に対する意識では、見た目への抵抗感に関する記述が多くみられた。しかし、水生昆虫を食べる前より実際に食べた後の方が肯定的な意見が増えた。水生昆虫食の普及には、見た目の工夫を施し、抵抗感を打ち消す広報や教育によって、今後、水生昆虫が食材として受け入れられる可能性はあると結論付けた。
著者
三好 智子 袖山 修史 加藤 元海
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.98-105, 2016-06-25 (Released:2016-12-27)
参考文献数
34

本研究では、高知県内と大阪府にある5ヶ所の動物園と水族館において、飼育動物の体重と給餌内容から、1日あたりの摂餌量とエネルギー量の推定を行なった。対象生物は、体の大きさではトビからジンベエザメまでを網羅し、分類群では哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、頭足類の全35種191個体を対象とした。摂取する餌の重量やエネルギー量と体重の関係について、分類群ごとに特徴がみられるかを検証した。体重に対する餌重量の比の平均値は哺乳類で7.5%、鳥類で12.9%であったのに対して、爬虫両生類、魚類および頭足類は1%未満であった。単位体重あたりの摂取エネルギー量の平均値は哺乳類と鳥類は約100kcal/kgと高く、その他の分類群では15kcal/kg未満の低い値となった。単位体重あたりの餌摂取量に関しては恒温動物と変温動物との間に違いがみられたものの、1日あたりの摂取エネルギー量は体重の増大に比例して増加していたことから、飼育動物の摂取エネルギー量は分類群ごとに体重から推定できる可能性が示唆された。
著者
吉川 琴子 谷地森 秀二 加藤 元海
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.329-336, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
12

ニホンカワウソは1979年に高知県須崎市の新荘川で目撃された個体を最後に,現在では絶滅種とされている.これまでの報告では,目撃日時や場所に関する情報の蓄積が乏しかったため,1979年に目撃されたニホンカワウソに関する行動範囲や個体数などの詳細はわかってない.本研究では,須崎市教育委員会生涯学習課に保管されていたニホンカワウソの資料を電子化して保存するとともに,可能な限り目撃情報の日時と場所を特定し情報を整理した.新荘川周辺で時間や場所を特定できた目撃情報は276件あり,そのうち1979年の情報が111件であった.1979年は,短期間に首に身体的な特徴をもった個体ともたない個体が局所的に同時に見られた.加えて,同時期に人慣れしている個体としていない個体が局所的に見られたことから,この時期に目撃されたニホンカワウソは行動的にも特徴が異なっていた.1974年にはメスの個体,1975年にはオスの個体が新荘川周辺で生存していたことがわかっている.ニホンカワウソの寿命は10–15年と推定されていることから,1979年の新荘川周辺には複数個体生存していた可能性が示唆される.
著者
三好 智子 袖山 修史 加藤 元海
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.98-105, 2016

<p>本研究では、高知県内と大阪府にある5ヶ所の動物園と水族館において、飼育動物の体重と給餌内容から、1日あたりの摂餌量とエネルギー量の推定を行なった。対象生物は、体の大きさではトビからジンベエザメまでを網羅し、分類群では哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、頭足類の全35種191個体を対象とした。摂取する餌の重量やエネルギー量と体重の関係について、分類群ごとに特徴がみられるかを検証した。体重に対する餌重量の比の平均値は哺乳類で7.5%、鳥類で12.9%であったのに対して、爬虫両生類、魚類および頭足類は1%未満であった。単位体重あたりの摂取エネルギー量の平均値は哺乳類と鳥類は約100kcal/kgと高く、その他の分類群では15kcal/kg未満の低い値となった。単位体重あたりの餌摂取量に関しては恒温動物と変温動物との間に違いがみられたものの、1日あたりの摂取エネルギー量は体重の増大に比例して増加していたことから、飼育動物の摂取エネルギー量は分類群ごとに体重から推定できる可能性が示唆された。</p>
著者
加藤 元海 見並 由梨 井上 光也
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.77-85, 2015-07-30 (Released:2017-05-23)
参考文献数
22

地球上における急激な人口増加に伴う食料問題の対策の1つとして、栄養価や生産コストの面から昆虫を利用することが有益であるとの報告書を2013年に国連食糧農業機関がまとめた。現在食べられているのはほとんどが陸生昆虫で、水生昆虫は少ない。しかし、水生昆虫の一部はザザムシや孫太郎虫として日本では食用とされてきた。本研究では、比較的大型で採集しやすい水生昆虫であるヘビトンボ、ヒゲナガカワトビケラ、大型カワゲラを対象に食用昆虫としての可能性を探るため、水生昆虫の生物量や収穫のしやすさを河川において現地調査し、加えて水生昆虫食に対する意識調査を行なった。底生動物の生物量は0.1から7.5g/m2の範囲で、うち食用昆虫の割合は平均で63%だった。また、生物量と捕獲努力量との間には正の相関がみられた。大型の水生昆虫を効率的に採集するには、降水や水生昆虫の生活史を考慮すると冬から初春に行なうのが適切であろう。昆虫食に対する意識では、見た目への抵抗感に関する記述が多くみられた。しかし、水生昆虫を食べる前より実際に食べた後の方が肯定的な意見が増えた。水生昆虫食の普及には、見た目の工夫を施し、抵抗感を打ち消す広報や教育によって、今後、水生昆虫が食材として受け入れられる可能性はあると結論付けた。
著者
佐藤 大紀 加藤 元海
出版者
高知大学大学院総合人間自然科学研究科黒潮圏総合科学専攻黒潮圏科学編集委員会
雑誌
黒潮圏科学 (ISSN:1882823X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.218-228, 2013-03

ニホンカワウソは、生息範囲が山から川、そして海に至るまで広く、生態系において上位捕食者に位置することから保全生態学的に重要な種である。日本で最後にニホンカワウソが確認された高知県の新荘川を対象に、生態学的な観点から現在と過去の河川環境を調べた。現在の河川環境に関しては、源流域から河口域に至る流程の8地点で河川地形や水質などの物理化学的環境、付着藻類や底生動物などの生物相の調査を行なった。過去の河川環境に関しては、文献調査と聞き込み調査を行なった。現在の河川環境は、上流域から下流域にかけて物理化学的環境と生物相に関して、流程に沿った顕著な変化の傾向はみられなかった。水質に関しては、過去から現在にかけてはわずかであるが改善する傾向にあり、水質の悪化がカワウソ絶滅の直接の要因ではなかったことが示唆される。明治初期から昭和初期にかけて乱獲で個体数が減少し、河川内にある堰の改修で主要な餌である魚類が減少した。河川周辺の植林やハウス栽培が原因で、水量が減少しさらなる魚類の減少をもたらした。乱獲に加え、1960年代以降、河川内改修や周辺環境の変化の人為的な3つの要因が重複したことがニホンカワウソの生息環境の著しい劣化を招き、1973年頃の気象災害による巣の破壊が新荘川からニホンカワウソの姿を消した決定的な要因と考えられる。