著者
嶺井 尚子 Naoko MINEI
出版者
Editorial Board of "Library, Information and Media Studies"
雑誌
図書館情報メディア研究 = Library, Information and Media Studies (ISSN:13487884)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.37-51, 2019-03-31

子どもの貧困は社会的課題とされ、貧困の連鎖が生じている可能性が指摘されている。貧困の連鎖の要因の1つとして教育格差が挙げられるが、公立図書館は社会的包摂の観点から教育格差を是正する一助となり得る。本研究では、公立図書館における児童サービスの可能性を、子どもの貧困対策の観点から再考することを目的とする。調査方法として、子どもの貧困対策や公立図書館の児童サービスに関する学術論文・図書を対象とし、文献調査を実施した。また文献調査の補完として、子どもの貧困を主たる課題とする地域の公立図書館の児童サービス担当職員を対象とし、児童サービスの現状・職員の意識に関するインタビュー調査を実施した。結果として、子どもの貧困対策として居場所づくりが、学力向上の手段として読書活動と親子間の交流が挙げられることが明らかになった。そして,公立図書館の児童サービスにおける①子どもの居場所を提供,②逆境を乗り越える力への間接的影響,③親子の愛着形成の機会提供という3つの活動が、子どもの貧困対策の要素を有することを指摘した。このように本論文は,公立図書館における児童サービスが子どもの貧困対策の一助となる可能性を示した。
著者
後藤 嘉宏
出版者
Editorial Board of "Library, Information and Media Studies"
雑誌
図書館情報メディア研究 = Library, Information and Media Studies (ISSN:13487884)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.63-81, 2019-03-31

中井正一は三木清から影響を受けているが、三木の個性、独創性信仰に対しては批判的な眼差しももっていた。本稿は中井の三木への評価の肯定的眼差しと否定的眼差しの双方を、中井の全著述を通じた三木への言及から、見ていく。中井はメディウムよりミッテルを、ということをほぼ終生にわたって唱えた。著述家三木に対しては狭い意味での個性志向を示しメディウムを脱しえなかったと評する一方で、実践家三木に対してはミッテルの実践をしたと、高く評価する。両者の眼差しの矛盾を考察することで、ソクラテス流の文字に自分の言葉を残すよりも対話をというミッテルの媒介の典型の姿を、中井は三木の実践に見据えていることが分かった。