- 著者
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菅井 有
上杉 憲幸
- 出版者
- 医学書院
- 巻号頁・発行日
- pp.1275-1285, 2021-09-25
要旨●腺窩上皮型腫瘍は腺窩上皮に類似する低グレードの腫瘍として本邦では以前から認知されてきた組織型である.しかし,本腫瘍の臨床病理像および分子異常についてはこれまで明らかにされてこなかった.腺窩上皮型腫瘍は異型性の観点から低グレードと高グレードに分類することができるが,本稿では低グレード腺窩上皮型腫瘍のみを扱った.本腫瘍の臨床病理像としては,腺窩上皮への類似性が特徴であることは論をまたないが,粘液形質の観点からもMUC5ACの発現が全例にみられた.一方で,腸細胞の転写因子であるCDX2が高頻度に発現していた.背景粘膜においても腸上皮化生を有する萎縮性胃炎が全例にみられた.分子異常としてはWnt系シグナル異常の指標であるβ cateninの核内蓄積が陰性で,p53過剰発現もほとんどの症例で陰性であった.またMSIもほとんどみられなかった.一方AI(allelic imbalance)は通常型低グレード腫瘍と比較しても高頻度であったが,メチル化異常は低〜中等度であった.本腫瘍は分化型腫瘍に分類されるが,通常型腫瘍とは異なる組織学的特徴を有していることのみならず,分子異常の観点からも独立性を指摘できる特異な腫瘍であると思われる.