著者
山野 泰穂 田中 信治 菅井 有 松下 弘雄 斎藤 彰一 三澤 将史 堀田 欣一 竹内 洋司 佐野 寧 永田 信二 河野 弘志
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1648-1669, 2020-12-25

Introduction山野 本号は「大腸鋸歯状病変の新展開」ということで,本誌ではしばしば鋸歯状病変に関して特集されていますが,大腸鋸歯状病変,さらにはSSA/P(sessile serrated adenoma/polyp)に関しては概ね市民権を得ており,多くの内視鏡医が知っている病変であると思います.SSA/PはMSI(microsatellite instability)陽性大腸癌の前駆病変であろうと分子生物学的にも解析が進んでおり,adenoma-carcinoma sequence,de novo pathwayに次ぐ第三の発癌ルートserrated neoplastic pathwayとしてmalignant potentialも高いのではと考えられています. 一方,実臨床では鋸歯状病変,特にSSA/Pは本当に悪性度が高いのかという疑問があります.これまで長い間,SSA/Pは過形成性ポリープと見分けがつかず,非腫瘍として扱われ放置されてきた歴史,むしろadenomaのほうが前癌病変として問題であると考えられてきた歴史があります.
著者
山野 泰穂 松下 弘雄 田中 義人 吉川 健二郎 原田 英嗣 吉田 優子 加藤 文一朗 久保 俊之 菅井 有 仲瀬 裕志
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.48-56, 2019-01-25

要旨●大腸腫瘍性病変に対する拡大内視鏡診断は腺腫・早期癌に対する質的診断,量的診断において欠くことのできない診断手法となった.しかし,SSA/Pという新たな疾患概念の登場により,鋸歯状病変の拡大内視鏡診断は新たなステージを迎えている.今回筆者らはHPを除いた大腸鋸歯状病変180病変に対して従来のpit pattern分類にII型・IV型の亜分類(開II型,伸II型,鋸IV型)を加えて分類し,病変全体の均一性の観点からpit pattern単一群とpit pattern複合群とに分けて検討した.その結果,単一群において,SSA/Pでは81病変中69病変(85.2%)と高率に開II型を示し,TSAでは12病変中10病変(83.3%)と高率に鋸IV型を示すことが判明し,各々高い感度,特異度,陽性的中率を認めた.一方,複合群においては,SSA/P+CDでは31病変中24病変(77.4%)と高率に開II型+鋸IV型を示し,開II型+何らかのpit(α)で,またTSAでは何らかのpit(α)に鋸IVが付随することで高い感度と陰性的中率を示したが,特異度,陽性的中率は劣っていた.Ca in SSA/Pでは開II型+VI型が高率に認められたが,Ca in TSAでは特徴は見い出せなかった.その理由として,TSAの病理組織学的診断上の問題などの関与が示唆された.以上より,大腸鋸歯状病変に対する拡大内視鏡観察では均一性の確認が重要であり,複合したpit patternを有する病変では慎重な対応が望まれると結論した.
著者
菅井 有 上杉 憲幸
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1275-1285, 2021-09-25

要旨●腺窩上皮型腫瘍は腺窩上皮に類似する低グレードの腫瘍として本邦では以前から認知されてきた組織型である.しかし,本腫瘍の臨床病理像および分子異常についてはこれまで明らかにされてこなかった.腺窩上皮型腫瘍は異型性の観点から低グレードと高グレードに分類することができるが,本稿では低グレード腺窩上皮型腫瘍のみを扱った.本腫瘍の臨床病理像としては,腺窩上皮への類似性が特徴であることは論をまたないが,粘液形質の観点からもMUC5ACの発現が全例にみられた.一方で,腸細胞の転写因子であるCDX2が高頻度に発現していた.背景粘膜においても腸上皮化生を有する萎縮性胃炎が全例にみられた.分子異常としてはWnt系シグナル異常の指標であるβ cateninの核内蓄積が陰性で,p53過剰発現もほとんどの症例で陰性であった.またMSIもほとんどみられなかった.一方AI(allelic imbalance)は通常型低グレード腫瘍と比較しても高頻度であったが,メチル化異常は低〜中等度であった.本腫瘍は分化型腫瘍に分類されるが,通常型腫瘍とは異なる組織学的特徴を有していることのみならず,分子異常の観点からも独立性を指摘できる特異な腫瘍であると思われる.
著者
鳥谷 洋右 遠藤 昌樹 赤坂 理三郎 梁井 俊一 川崎 啓祐 中村 昌太郎 永塚 真 上杉 憲幸 菅井 有 松本 主之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.612-620, 2020-05-24

●「考える内視鏡診断」のポイント・SNADETsの診断では,粘液形質を背景とした胃型・腸型腫瘍に大別されることを熟知しておく.・通常観察では,脂肪粒を反映した“絨毛の白色化”を観察することで腺腫・早期癌,特に腸型腫瘍を拾い上げることが可能である.・白色絨毛陽性病変では,腫瘍径,色調,肉眼型,結節の有無,易出血性,絨毛の白色化の分布を観察する.・白色絨毛陰性の十二指腸球部病変は胃型腫瘍を念頭に置いて観察を行う.・M-NBI,M-CVを用いたoptical biopsyが望ましいが,拡大内視鏡所見と組織学的異型度や粘液形質の乖離に留意する.・内視鏡治療を前提とする場合は,安易な生検を避ける.
著者
梁井 俊一 菅井 有 松本 主之
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.599-605, 2021 (Released:2021-11-29)
参考文献数
63

免疫チェックポイント阻害薬(immune-checkpoint inhibitors:ICI)が悪性腫瘍の標準治療となるに伴い,免疫関連有害事象(immune-related adverse events:irAE)が注目されている.全身諸臓器の中で,消化管はirAEの好発部位であり,なかでも大腸が最も高率である.ICI関連大腸炎の内視鏡所見は血管透見の消失,顆粒状粘膜,発赤,粘液付着,浮腫性粘膜,びらん,潰瘍などであり,病理学的所見として粘膜固有層の拡張,好中球の上皮内浸潤,陰窩の歪み,陰窩膿瘍および顕著なアポトーシスが認められる.このように,ICI関連大腸炎の診断には内視鏡検査と生検が必須であるが,重症度は患者により大きく異なる.また,副腎皮質ステロイドや生物学的製剤などの免疫制御療法を要する重症例も存在するため,本症を見逃さないことが重要である.
著者
高山 哲治 五十嵐 正広 大住 省三 岡 志郎 角田 文彦 久保 宜明 熊谷 秀規 佐々木 美香 菅井 有 菅野 康吉 武田 祐子 土山 寿志 阪埜 浩司 深堀 優 古川 洋一 堀松 高博 六車 直樹 石川 秀樹 岩間 毅夫 岡﨑 康司 斎藤 豊 松浦 成昭 武藤 倫弘 冨田 尚裕 秋山 卓士 山本 敏樹 石田 秀行 中山 佳子
出版者
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
遺伝性腫瘍 (ISSN:24356808)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.93-114, 2020 (Released:2020-09-25)
参考文献数
62

Cowden症候群/PTEN過誤腫症候群は,PTEN遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントを原因とする常染色体優性遺伝性の希少疾患である.消化管,皮膚,粘膜,乳房,甲状腺,子宮内膜,脳などに過誤腫性病変の多発を特徴とする.巨頭症および20歳代後半までに多発性皮膚粘膜病変を発症することが多い.ときに小児期に多発する消化管病変,自閉スペクトラム症,知的障害が診断の契機となる.また,がん遺伝子パネル検査によって診断される可能性がある.乳癌,甲状腺癌,子宮内膜癌,大腸癌,腎細胞癌などの悪性腫瘍を合併するリスクが高く,適切なサーベイランスが必要である. 本診療ガイドラインでは,小児から成人にかけてシームレスに,正確な診断と適切な治療・サーベイランスが行われるよう,基本的事項を解説し,4個のクリニカルクエスチョンと推奨を作成した.
著者
遠藤 昌樹 松本 主之 菅井 有
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.3763-3774, 2014 (Released:2014-11-28)
参考文献数
78

十二指腸腺腫や早期癌の発見は増加しているが,疾患の頻度の低さもあり鑑別診断については曖昧な点が多い.生検による腺腫,早期癌の診断も容易ではなく,内視鏡診断・病理学的診断ともに他の消化管に比し課題が多いのが現状である.内視鏡治療に関しても適応の問題,手技の困難性,偶発症が高率である点などが問題である.さらに,鑑別診断を考える上では非腫瘍性隆起性病変の特徴を知ることも重要である.異所性胃粘膜とブルンネル腺過形成の頻度が高いが,拡大所見を含めた詳細な観察で鑑別が可能である.また腸型の腺腫・粘膜内癌では絨毛の白色化が特徴であり,重要な所見である.白色化と粘液形質の関連など臨床病理学的な検証が今後の課題といえる.
著者
須藤 隆之 菅井 有 上杉 憲幸 幅野 渉 中村 眞一 斎藤 和好
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.208-213, 2005-02-01
参考文献数
16
被引用文献数
3

症例は58歳の男性で,平成14年7月27日腹部膨満感があり近医を受診した.精査にて腸間膜腫瘍と診断,9月12日腫瘍摘出,右半結腸切除,小腸切除術を施行.病理組織学的所見は紡錘形腫瘍細胞が束状に増殖していた.免疫組織学的検査にてc-kit染色陽性で,腸間膜gastroin-testinal stromal tumor(GIST)の診断となる.10月27日よりメシル酸イマチニブ400mg/日投与開始.平成15年4月4日腹部CTにてGIST再発を認め4月23日腫瘍摘出術施行.5月16日よりメシル酸イマチニブ400mg/日投与再開.平成16年12月12日腹部CTにてGIST再発を認め12月24日腫瘍摘出術施行.c-kit遺伝子を検索し,エクソン9のcodon503と504の間に6塩基対の挿入を認めた.c-kitの遺伝子検索は,メシル酸イマチニブの効果判定のために重要であると思われた.