- 著者
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西園 昌久
- 出版者
- 医学書院
- 巻号頁・発行日
- pp.549-551, 2014-06-15
病識の理解をめぐる今日の状況
筆者のように,操作的診断法が開発され,一般化する以前に精神科医になった者にとっては,病識の理解は精神科診断を進めていく上できわめて重要なことであった。操作的診断法が普及した今日でも,病識という言葉が消え去ったわけではない。米国精神医学会治療ガイドライン「精神医学的評価法」(日本精神神経学会監訳)1)の中の「精神状態の検査」の項の中に,「さらに,治療方針や適切な治療場所の選択について決まったことを伝えるために,患者の病識,判断力,抽象的な思考力についての成績を得る」と記載されている。ただ,病識の定義や意味については何も論じられてはいない。
そもそも,我々が学んだ病識の概念はJaspers K3)の説明に基づくものであった。Jaspersは,患者の疾病体験に対する態度の中で,あらゆる症状や病気全体の種類も重きも正しく理解されているのを病識と呼んだ。病の存在に対する自覚を欠くということは人格のはなはだしい歪みなしには起こらないと考えられ,病識欠如を精神病とし,病識出現を精神病の寛解とする臨床的判断がなされた。その意味で病識の統合失調症の診断上の意義は高かった。