著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
雑誌
看護学雑誌 (ISSN:03869830)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.446-449, 1994-05-01

はじめに 『リア王』1)(1605年)は,シェイクスピアの4大悲劇の頂点と目される2)など,今日なお高い評価を受けている作品だが,精神医学的には,リア王の言動が痴呆性老人に似ている点で興味深い作品である.もっともリア王痴呆説は別に目新しいものではなく,前世紀末のレールをはじめ,ワイガントやガイヤーも既に唱えている3).ただ,ここで面白いのは,『リア王』という悲劇そのものが,リア王の痴呆に周囲の人々が気づかなかった,あるいは気づいても適切な対策を取らなかったがために起きた悲劇のように見えることである.即ち,『リア王』という物語は,臨床的には周囲が痴呆に対する認識を欠き,その対応を誤った場合に生じる事態によく似ているのである. そこで本論では,リア王の痴呆老人的な言動とそれに対する周囲の対応を中心に,作品冒頭の財産分与の場面と,その後の長女・次女の対応,最後の場面でのコーディーリアの対応という順で,検討を加えてみたい.

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