- 著者
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坪川 恒久
- 出版者
- メディカル・サイエンス・インターナショナル
- 巻号頁・発行日
- pp.218-219, 2016-03-01
亜酸化窒素(笑気)は,最も古くから使われている全身麻酔薬であり,鎮痛作用,鎮静作用を併せもつ。しかし,近年,亜酸化窒素を使用する機会は大きく減少している(レミフェンタニルの登場でとどめを刺された感がある)。ビタミンB12,葉酸の代謝阻害によりミエリン鞘の合成を障害するし,閉鎖腔への析出も一部の疾患では問題になる。しかし,亜酸化窒素は無味無臭で緩徐導入に適している。亜酸化窒素の最小肺胞濃度(MAC)は104%と鎮静作用は弱く,血液/ガス分配係数が0.47とデスフルランと同等であり(213ページ表1参照),すみやかに吸収,排泄される。そのため,高濃度で投与することになり,薬物動態学的には興味深い現象を引き起こす。亜酸化窒素を使いこなすことで,吸入麻酔の幅が広がる。また,鎮痛作用もN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体を介していて,オピオイドとは異なることから,術中のワンポイントとしての使い方もある。まだまだ捨てたもんじゃない。