- 著者
-
樋口 秀行
- 出版者
- メディカル・サイエンス・インターナショナル
- 巻号頁・発行日
- pp.121-125, 2019-04-19
丁度この原稿を書き始めたころ,嬉しいニュースが飛び込んできた。京都大学高等研究院特別教授の本庶佑先生がノーベル生理学・医学賞を受賞したのであった。日本人として誇らしく思うのは当然であるが,筆者が特に共感したのは本庶先生の「教科書を信じるな」という言葉であった。もちろん,本庶先生と同列に語るのは誠におこがましいことと重々承知はしているが,“我が意を得たり”という気持ちになったのである。筆者がここ最近行ってきた研究は妊娠子宮の左方転位についてであるが,この左方転位は産科麻酔領域の教科書において古くから,お作法,ドグマのごとく遵守しなければならない手技であるかのように記載されてきた。左方転位を施行していなくても教義違反で罰せられることはないものの,軽蔑の目を向けられるか,または不勉強の謗りを免れないのであった。今回,筆者がこのドグマにどのような経緯で挑戦したかを述べたい。