著者
樋口 秀行
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.347-351, 2016-05-14 (Released:2016-07-07)
参考文献数
7

デスフルランの物理的特徴として,標準沸点が22.8℃と他の揮発性麻酔薬と比べて,極めて低いという点がある.そのため,保存・供給する容器,気化器も特徴的になっている.デスフルランは化学的に極めて安定している.すなわち,生体内代謝はほとんど受けず,二酸化炭素吸収剤と反応して分解されることはない.しかしながら,乾燥したソーダライム,バラライムと反応して一酸化炭素を生成する.また塩素分子を有さないので,オゾン層破壊作用はないが,地球温暖化効果を有し,対流圏における寿命は他の揮発性麻酔薬より長い.
著者
樋口 秀行
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.121-125, 2019-04-19

丁度この原稿を書き始めたころ,嬉しいニュースが飛び込んできた。京都大学高等研究院特別教授の本庶佑先生がノーベル生理学・医学賞を受賞したのであった。日本人として誇らしく思うのは当然であるが,筆者が特に共感したのは本庶先生の「教科書を信じるな」という言葉であった。もちろん,本庶先生と同列に語るのは誠におこがましいことと重々承知はしているが,“我が意を得たり”という気持ちになったのである。筆者がここ最近行ってきた研究は妊娠子宮の左方転位についてであるが,この左方転位は産科麻酔領域の教科書において古くから,お作法,ドグマのごとく遵守しなければならない手技であるかのように記載されてきた。左方転位を施行していなくても教義違反で罰せられることはないものの,軽蔑の目を向けられるか,または不勉強の謗りを免れないのであった。今回,筆者がこのドグマにどのような経緯で挑戦したかを述べたい。
著者
樋口 秀行 稲垣 友紀子 平手 博之 高須 宏江 大越 有一 大日方 洋文 太尾田 正彦
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1-20, 2021-01-01

定例の手術もかなりはけて,少しまったりした雰囲気になっていた夕方の麻酔科控え室。そこに,緊急手術申し込みの連絡が入った。SARS-CoV-2肺炎による呼吸不全により人工呼吸管理を行っていたが,1日前に抜管した。本日,不穏状態になり,ベッド柵を乗り越え,落下し上腕骨を骨折した。開放創があるため緊急手術をしたいという内容であった。2日前のPCR検査ではいまだ陽性が持続しているとのことである。 日本麻酔科学会の指針では,区域麻酔で施行できる症例は極力,全身麻酔を避けるとあるが,最近,腕神経叢ブロックのみで外科手術を施行した経験もないし,斜角筋間アプローチによる横隔神経麻痺は困る。当院には陰圧手術室が存在しないし,個人防護具(PPE)の着脱を完璧にこなせる自信もない。どうしよう? あれこれ考えるが答えが出ない。 手術部位や施設,手術室の環境により,麻酔管理のアプローチは複数あると思われるが,おのおのが置かれた状況下で最善の麻酔管理方法について誌上で議論してみたい。