著者
山崎 正志
出版者
三輪書店
巻号頁・発行日
pp.1085-1092, 2019-12-25

はじめに 腰椎椎間板ヘルニアに対するコンドリアーゼ(ヘルニコア®)を用いた椎間板内注入療法(以下,コンドリアーゼ療法)が本邦で認可され,新しい椎間板内酵素注入療法として,その普及が期待されている.コンドリアーゼ療法を紹介する際に,しばしば話題に上るのが,1980年代に北米を中心として世界的に盛んに施行されていたキモパパイン椎間板内注入療法(以下,キモパパイン療法)である3).キモパパイン療法に対する評価のほとんどは,「アナフィラキシーショック,横断性脊髄炎や重度の腰痛などの重篤な副作用の発現により,施行されなくなった」という内容のものである.しかしながら,これらの評価は,適切な科学的解析のもとに下された結論といえるのであろうか? 筆者が渉猟し得た限りでは,キモパパイン療法を科学的に完全に否定している資料は見当たらない. キモパパイン療法が北米で全盛を迎えていた1980年代の初めに,これを本邦に導入することにひときわ情熱を傾けていたのが,当時千葉大学整形外科教授の井上駿一先生であった.井上先生の強力なリーダーシップのもと,千葉大学を中心にキモパパイン療法の基礎的臨床的研究が本邦においても盛んに行われた5,6,11,12).筆者も当時,大学院生として,その研究に加わっていた15〜17).1987年に井上駿一先生が研究半ばで急逝されたため,本邦におけるキモパパイン研究は,ややその勢いを失いかけた感はあった.しかしながら,その後も研究は継続され,Phase Ⅲ臨床試験までが行われた1).その結果は,十分に満足すべきものであり,重篤な合併症はなかったと記憶している.しかしながら,本邦でのキモパパイン療法の臨床使用が認可されることはなく,その後,コンドリアーゼ療法が登場するまでの約30年間は,キモパパイン療法が話題に上がることはほとんどなくなった. 今回,本邦におけるキモパパイン療法の基礎的臨床的研究を史的に考察した.確かに,キモパパイン療法そのものは歴史的な存在であろう.しかし,今後の発展が期待されるコンドリアーゼ療法の臨床的な効果を議論するうえで,キモパパイン療法との比較は,有益な情報をもたらすと考える.その意味で,本稿では,キモパパインとコンドリアーゼとの比較を加味して執筆を行った.

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