著者
国府田 諭
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.163, 2010 (Released:2010-06-10)

日本版PTALの概要,目的,手法 PTAL(Public Transport Accessibility Level)は,ある地点や地域における公共交通の利用しやすさを定量的に評価する指標算出の手法である.2000年に英国の大ロンドン市が発足し,その交通局(Transport for London)で開発され都市計画規制で実際に用いられている.2008年に策定された大ロンドン市の現行マスタープランは「PTALメソッドは公共交通アクセシビリティを評価するための一貫した枠組みを提供する」と位置づけている. この手法の眼目は,(1)公共交通の利用しやすさに関わる様々な要素の中から<交通機関への距離>と<運行本数>を選び,(2)一貫性と透明性のある計算過程を経て,(3)政策立案や行政運営にも使える数値を算出することにある.日本での試みはまだない.(3)は尚早としても(1)(2)を備えた社会指標があれば諸研究に資するであろう.これが本研究の動機である. 今回は,上記(1)と同様,交通機関への距離と運行本数を軸として,ある地点や地域での公共交通の利用しやすさを5 段階に分けて評価した.例えば600m以内に鉄道駅(1日の運行本数150本以上)があれば最も利用しやすさの高い「5」となる.逆に600m以内に鉄道駅がなく,かつ300m以内にバス停がなければ最も低い「1」となる. 交通機関データは2009年9月時点である. 算出されたPTAL区分に,国勢調査の町丁別人口(2005年)と国土数値情報の土地利用細分メッシュ(2006年)を組み合わせて全国市区町村における「PTAL別の居住人口割合」を算出した.データの年次が異なるため,町丁別人口分布と土地利用が各調査年以降変化していないと仮定した.算出にあたり,PostGIS によるパソコン上のGIS を構築した. 算出結果の分析と今後の課題 分析の第一として,札幌市と広島市それぞれの政令区別PTALを見る.両市とも人口1千万人を超え,高密な業務集中地区をもつと同時に郊外部や丘陵・山間部があり,中心部に路面電車が運行されている.札幌市の結果を見ると,路面電車が走る中央区が最も良好でPTAL4および5の地域への居住人口割合が64%,PTAL2および3を加えると83%である.路面電車のない区でも概ね高PTAL 地域への居住が一定見られる. 一方広島市は,中心部(中区)は札幌市中央区と同様であるが全体として高PTAL地域への居住が札幌市ほど進んでいない.しかし中程度の地域を含めると札幌市より良好な区もある.両市における都市計画上の経緯,地理条件,地下鉄の有無などの違いが影響していると考えられる.今後は区だけでなく交通機関沿線別などで集計し,両市を含む諸都市間の詳しい分析を行ないたい. 分析の第二として,首都圏と地方都市圏それぞれ人口30万人以上の都市を対象に,横軸に高PTAL地域への居住割合を,縦軸に低PTALへの居住割合をとってプロットした(政令指定都市を除く).圏域間で顕著な差があるが圏域内での差も大きい.特に首都圏では高PTAL地域への居住割合に相当な幅がある.一つの原因として,運行本数の多い鉄道駅はあるがスプロール化によって駅から離れた居住が進んだ都市がかなりあるためと思われる.今回は一時点での算出だが,今後は経年的な算出を行なうことによりスプロール化など都市構造の変化と交通機関の変化が与える影響を可視化・定量化したい.

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