著者
柴辻 優樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.70, 2021 (Released:2021-03-29)

研究の背景自然災害後における社会経済的に不利な人々の居住地移動パターンについては、世界各地の事例をもとに多くの研究が行われている。Elliot and Pais (2010)はHurricane Andrew後の人口の空間的再分配を分析し、社会的に脆弱な人々は災害発生前に発展していなかった地域に集中する傾向を指摘した。Kawawaki (2018)は東日本大震災後の人口移動要因について分析し、Elliot and Pais (2010)と同様の傾向が見られることを指摘した。本研究では、日本において特に経済的困難に陥りやすい母子世帯の移動に着目し、東日本大震災後の移動傾向を分析した。分析方法とデータ分析には2項ロジットモデルを用いた。被説明変数は、震災前後で同じ住所に居住していれば1、そうでない場合は0とし、被災地からの移動の傾向を分析した。対象は子供のいる核家族世帯の世帯主もしくは代表者(以下、世帯主)とした。分析では母子世帯(離別・死別・未婚の母と20歳未満の子のみの世帯)の母についてダミー変数を用いた。被災地はKawawaki(2018)が用いた岩手県・宮城県・福島県の沿岸の38市区町村と定義し、震災前に被災市区町村に居住していたかを表すダミー変数を用いた。データは国勢調査の調査票情報(2015年)を用いた。各世帯の移動の有無は5年前常住地をもとに、2010年の常住地が2015年と同一住所である場合は1、そうでない場合は0とする。説明変数は母子世帯ダミー、2010年被災地居住ダミーに加え、両変数の交差項を用いる。その他のコントロール変数は年齢、年齢の2乗項、女性ダミー、2010年時点の子供の数、2010年時点の6歳未満の子供の有無ダミー、外国人ダミー、2010年常住地の人口区分ダミー(5万人 or 20万人以上)、その他2010年常住地の地域特性(失業率、人口密度(対数)、離婚率、転出超過率、平均収入、自治体の歳出決算総額に占める民生費率、民生費に占める児童福祉費率)を用いる。分析結果の概要限界効果の推定値より、被災地に居住していなかった世帯主と比較すると2010年の被災地居住世帯主は、2015年も同じ住所に留まる確率が約14.4%低いこと、母子世帯の母はほかの世帯主と比較すると同じ住所に留まる確率が約0.6%低いことがわかる。交差項の限界効果推定では、被災地に居住していた母子世帯の母は、被災地居住のほかの世帯主と比較すると、同じ住所に留まる確率が約6.7%高い結果となった。以上の結果から、東日本大震災の影響を受けた地域に居住していた母子世帯は子供のいる核家族世帯と比較して、同じ地域に居住し続ける傾向が強いことが示唆される。参考文献Elliot, J. R. and Pais, J. 2010. When Nature Pushes Back: Environmental Impact and the Spatial Redistribution of Socially Vulnerable Populations. Social Science Quarterly 91: 1187-1202.Kawawaki,Y. 2018. Economic Analysis of Population Migration Factors Caused by the Great East Japan Earthquake and Tsunami. Review of Urban & Regional Development Studies 30: 44-65.謝辞データは統計法に基づき、独立行政法人統計センターから「国政調査」(総務省)の調査票情報の提供を受け、独自に作成・加工したものであり、総務省が作成・公表している統計等とは異なる。本研究は日本学術振興会特別研究員奨励費(課題番号:20J22386)の助成を受けた。ここに謝意を表する。

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柴辻 優樹 (2021) “東日本大震災後における母子世帯の被災地からの居住地移動” _日本地理学会発表要旨集_ 2021:70 / “東日本大震災後における母子世帯の被災地からの居住地移動” https://t.co/hW2fBJMAbO #child #gender #Japan

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