著者
張 碩
出版者
カルチュラル・スタディーズ学会
雑誌
年報カルチュラル・スタディーズ (ISSN:21879222)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.11-34, 2020 (Released:2020-10-09)
参考文献数
55

東日本大震災により東京電力の福島第一原発に深刻な事故が発生後、日本国内に留まらず、全世界の原発政策に重大な影響を及ぼしている。筆者の母国中国では、政府が同年の3月16日に原発の新規建設計画の審査・承認の暫定的凍結を決定したが、関連報道ではその後原発運行・推進に傾いたことが見受けられる。 福島原発事故が発生した際に、中国のメディアは連日事故に関する報道を流し続けた。その中で、中国中央電視台で東日本大震災と福島原発事故の情報を取得した人が74.8%に達した1)。本稿は中央電視台で放送された唯一の長篇ドキュメンタリー番組シリーズ『日本大地震啓示録』を分析することを通して、(1) 中国のテレビメディアは原発および福島原発事故をめぐる報道中に隠されたイデオロギーを解明し(2) それらのイデオロギーを維持するのに使用された言語要素を明らかにすることを目的とする。今まで、福島原発事故をめぐる中国メディアの報道に関する研究は多いが、談話分析の研究は殆どないため、本稿では、分析にあったては主にトポス(Wodak 2001,2010) と前提(Fairclough 2003) の理論枠組みを用い、『日本大地震啓示録』におけるナレーション、ジャーナリストおよび専門家などの談話 から5 つの抜粋を取り上げ、ミクロ分析を行う。それによって、福島原発事故の被害が悪化することを避けられると主張し、事故の深刻化を東京電力と日本政府に帰責する意図を解析できた。また、同番組において、専門家は原発の必要性・重要性を強調し、原発の稼働を当然視するイデオロギーも読み解かれ、さらに『日本大地震啓示録』はそれらのイデオロギーが視聴者に受け入れられやすいように使用された言語ストラテジーを明らかにした。

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