著者
酒井 健児 荒木 寿和 佐藤 和貴 黒田 重史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P3398, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】夜間痛を有する肩関節疾患患者(以下,肩夜間痛患者)の姿勢特性として,円背を呈し,肩甲骨前傾・内旋が増大しており,小胸筋の緊張が高いことを経験する.このような姿勢を呈する患者は夜間痛出現部位として,過緊張を起こしている小胸筋よりも,上腕前面から外側面にかけて訴えることが多い.そこで今回,徒手で擬似的に小胸筋を短縮位にさせたときの三角筋前部線維の動態を,超音波診断装置を用いて調査した.そして,円背を呈した肩夜間痛患者に対する評価・治療する上で有用と思われる知見が得られたので報告する.【方法】対象は,肩関節に整形外科的問題がない健常成人10名20肩であり,ヘルシンキ宣言に基づいて十分に説明して同意を得て行った.方法は,超音波診断装置Xario(TOSHIBA製)のリニア型プローブを使用し,自然背臥位にて計測した.検者が徒手で他動的に肩甲骨を前傾・内旋方向に誘導し,擬似的に小胸筋を短縮位にさせた状態(以下,小胸筋短縮位)での三角筋前部線維筋束の動態方向を長軸像で観察した.【結果】全20肩で,小胸筋短縮位で三角筋前部線維筋束が末梢方向に移動した.その移動距離は,約5~10mmだった.【考察】我々は,先行研究として,3次元CTを用いて肩甲骨内旋増大している肩夜間痛患者の姿勢特性を調査し,肩甲骨の前傾・内旋と,鎖骨のprotractionが増大していることを報告した.つまり,小胸筋が短縮すると,烏口突起を介して,肩甲骨を前傾・内旋させる.そして肩鎖関節を介して鎖骨をprotractionさせ,三角筋前部線維の起始部である鎖骨遠位端が腹尾側方向に移動することで,三角筋前部線維の筋束が停止部である三角筋粗面に向かって,末梢方向に移動したと考えられる.したがって,肩夜間痛患者で小胸筋が短縮している場合,三角筋前部線維の末梢方向への伸張ストレスが,夜間痛発生に関与している可能性が示唆される.【まとめ】小胸筋短縮位における三角筋前部線維の動態方向を,超音波画像を用いて観察した.全例において,徒手で他動的に小胸筋を短縮位にすると,三角筋前部線維は末梢方向に移動することが観察できた.小胸筋が短縮している肩夜間痛患者に対して,小胸筋の短縮を改善させるとともに,三角筋前部線維を求心性収縮させて筋束を中枢方向へ誘導したり,ストレッチなどにより末梢方向への柔軟性を高めることが有効であると推察された.

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