著者
堤 裕昭
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.83-102, 2005 (Released:2009-01-19)
参考文献数
34
被引用文献数
10 10

有明海に面した熊本県の沿岸には,アサリの生息に適した砂質干潟が発達し,1970年代後半から1980年代前半にかけて,アサリの漁獲量は約40,000∼65,000トンに達した.しかしながら,1980年代後半から1990年代にかけて漁獲量が激減し,1990年代後半以降,熊本県全体のアサリの漁獲量はわずか1,000∼3,000トンにとどまっている.アサリの漁獲量が激減した干潟では,アサリのプランクトン幼生が基質に定着·変態しても,ほとんどの個体が殻長数ミリに成長するまでに死亡していた.ところが,アサリ漁の主要な漁場である緑川河口干潟および荒尾市の干潟では,沖合の海底から採取した砂を撒くと,その場所にかぎっては,覆砂から数年以内は,このような定着·変態直後の幼稚体の死亡が少なく,アサリ漁が再開されるまでに個体群の回復が見られた.覆砂した場所にかぎって,一時的にアサリの幼稚体の生残率が高くなる現象については,もともとの干潟の基質に含まれる物質がアサリの幼稚体の生残に悪影響を及ぼしていることが考えられ,基質中の重金属類とその基質に生息するアサリの生息量との関係を解析した.その結果,アサリの幼稚体のほとんどが死亡している熊本県熊本市の緑川河口干潟および荒尾市の干潟の基質には,1,700∼2,900μg/g のマンガンが含まれ,一方,現在,アサリの現存量の約1∼6kg/m2に達する菊池川河口干潟および韓国の Sonjedo干潟では,マンガン含有量が500μg/g未満にとどまった.基質中に含まれるマンガンが,アサリの幼稚体に何らかの生理的な悪影響を与えている可能性が考えられる.

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