著者
中島 淳 宮脇 崇
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.79-94, 2021-07-28 (Released:2021-10-01)
参考文献数
58

1.休耕田を掘削した湿地ビオトープ(手光ビオトープ)における3 年間の調査において,18 目 93 種の水生動物,4 種の沈水植物を確認した.このうち環境省あるいは福岡県レッドデータブック掲載種は 24 種であり,本ビオトープが生物多様性や希少種の保全に効果があったことがわかった.2.水生昆虫の種数は夏季(8 月)を中心とした時期に増加,冬季(2 月)を中心とした時期に減少し,顕著な季節性があることがわかった.このことから,止水性昆虫相の調査は夏季に行うことが適していると考えられた.3.水生昆虫の種数及び多様度指数(Hʼ)は顕著な移行帯(エコトーン)をもつ地点が大きかったが,一方で流水環境に特異な種も確認されたことから,生物多様性保全を目的とした場合には浅所から深所まで連続的に変化する移行帯を伴う環境構造とともに,止水から流水にかけての多様な流速環境をデザインすることが重要であると考えられた.4.本ビオトープで確認された水生昆虫類は,ほぼ全種が近隣の 2 km 以内のため池に生息する種であったが,その一方でそれらのため池に生息しながらビオトープで確認されない種もあった.このことから,本ビオトープの水生昆虫相は,周囲の水生昆虫相とビオトープの環境構造の 2 点から決定したものと考えられた.5.本ビオトープの水生生物相は侵略性のある外来種であるアメリカザリガニとスクミリンゴガイによる悪影響を受けていたものと考えられた.
著者
今本 博臣 後藤 浩一 白井 明夫 鷲谷 いづみ
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-14, 2003-08-30 (Released:2009-05-22)
参考文献数
12
被引用文献数
6 5

1998~2000年にかけて公団管理15ダムの無土壌岩盤法面で,植生調査および毎木調査を実施し,以下の結果を得た。調査区は無土壌岩盤が19カ所,林縁部が4カ所,対比区が3カ所であった.・外来牧草主体の緑化工を実施した地区は,施工後20年以上経過しても依然として外来牧草が優占しており,在来種への移行がほとんどみられなかった.・緑化工を実施していない地区は,施工後20年以上経過すると,アカマツ,ハリエンジュ,ハゼノキ,アカメガシワ,ヌルデ,リョウブ等の先駆性樹種を中心とした樹林に移行していた.・在来種の中ではアカメガシワ,リョウブ,アカマツ,ヌルデが,岩,れき質といった植生の生育基盤としてもっとも悪い場所においても良好な生育を示した.・無土壌岩盤法面における生育樹種は,基盤条件が大きな影響を与えているという傾向が見られた.・植物の多様度は,外来牧草主体の緑化工を実施した調査区で低く,緑化工を実施していない調査区および緑化工を実施した林縁部で高かった.
著者
中村 和久 河内 香織
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.21-00001, (Released:2021-07-10)
参考文献数
27

日本において里地里山は独特の二次的自然環境を形成することにより,固有種や希少種を含んだ多くの生物の生息地となり,生物多様性に大きく貢献してきた.しかしながら近年はその里地里山環境が減少および劣化し,その中でも重要な構成要素の一つであるため池は防災対策の影響もあり著しく減少しており,その保全には限界があるのが現状である.そこで本研究では,ため池の保全だけに頼るのではなく,ため池の代替となる水環境の模索も必要と考えてゴルフ場の池に注目した.そして,近畿圏の 6 つのゴルフ場の調整池を対象として,水生植物の種類と種数を調査した.また,池の構造や周囲の環境,管理方法によって出現した水生植物種数の説明を試みた.ヒアリングの結果から,人為的な動植物の持ち込みは確認されなかった.調整池で観察された水生植物の種数は平均 2.5 種であり,先行研究においてため池で観察された種数(2.35 種)に劣らなかった.水深が浅いほど抽水植物の出現種数は多かった.これは抽水植物の出現に適した水深が保たれているためであると考えられた.DO が低いほど抽水植物の出現種数は多かったことに関しては,植物プランクトンの過剰繁殖との関係が考えられた.ゴルフ場の調整池で水生植物が生育できた要因として,一般のため池では管理放棄による遷移で消滅しやすい浅くて小さな池が存続していたこと,アメリカザリガニが侵入していなかったことが考えられる.特に抽水植物については適切な浅場と基質が存在したことが好ましい条件であったと推察された.今後は,里地里山の代替地としての可能性を高められるようなゴルフ場の管理を進めていくことが必要だと考える.
著者
中島 淳 江口 勝久 乾 隆帝 西田 高志 中谷 祐也 鬼倉 徳雄 及川 信
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.183-193, 2008 (Released:2009-03-13)
参考文献数
25
被引用文献数
6 3

宮崎県延岡市の五ヶ瀬川水系北川の河川感潮域に人工的に造成されたワンドにおいて,2001年から2006年にかけて,生物の定着状況について調査を行った.人工ワンドは,従来あった天然の既存ワンドが河川改修により失われるため,その代替環境として,その上流の河川敷を,間口50m,奥行き400mにわたって新たに掘削して造成されたものである.1.調査の結果,72種の魚類,12種のカニ類,7種の甲虫類が採集され,合計91種の生物の生息場所として機能していることが明らかとなった.2.ワンドの底層は年を追う毎に起伏が生じ,平坦に造成された底層は5年後には浅い場所と深い場所で約100cmもの差が生じていた.塩分躍層は,満潮時,干潮時ともに水面下1mより深い水深で生じていた.3.ワンドの奥部には泥干潟やコアマモ域が自然に生じ,それらの環境を好む魚類,カニ類,甲虫類が定着した.4.従来あった天然の旧ワンドと人工ワンドにおいて,夏季に出現した魚類種数に大きな違いはなく,人工ワンドが旧ワンドの代替環境として十分に機能しているものと考えられた.5.感潮域において生物多様性保全を目的とした人工ワンドを今後造成する際には,安定した塩分躍層が出来るように,干潮時でも1m以上の水深を確保する構造にすること,水際域や干潟が自然に出来るように,造成時に緩傾斜区間を多く配置すること,また,ヨシ植生域をなるべく残すこと,など多様な環境構造を創出することを意識して設計することが特に重要と考えられた.
著者
乾 隆帝 西田 高志 鬼倉 徳雄
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-17, 2012 (Released:2012-09-08)
参考文献数
32
被引用文献数
2 2

本研究では,福岡県日本海側の漁港の船揚場スロープ(以下,漁港スロープ)と,周辺水域の様々なタイプの自然海岸の魚類群集構造を比較することにより,漁港スロープにおける魚類の出現特性を明らかにすることを試みた.漁港スロープでは,70種,合計8875個体の魚類が採集された.漁港スロープ未成魚群集は,静穏で内湾的な地点と類似し,種数,個体数ともに豊富であった.一方成魚の群集構造は,砂浜海岸の一部と漁港によって構成されるグループと類似し,種数,個体数ともに豊富な,静穏な内湾や汽水域の中で,特に緩い潮間帯傾斜を持つ地点とは類似していなかった.これらのことから,漁港スロープは,未成魚の生息場として,一部の内湾的な自然海岸と同等の機能を持つ可能性がある一方,成魚生息場としては不十分な環境であるということが示唆された.
著者
片山 直樹 熊田 那央 田和 康太
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.127-138, 2021-07-28 (Released:2021-10-01)
参考文献数
107

鳥類の生息地としての水田生態系の機能を明らかにするため,国内を中心に既往研究を整理した.その結果,水田は年間を通じ,多くの鳥類に採食場所を提供していることが示された.水田だけで生活史を完結させる種は少なく,草地や森林等の生息地の異質性が鳥類の種多様性を支えていた.しかし,戦後の農業の集約化は,水田の生息地としての質を低下させ,鳥類の生息・分布にも深刻な影響をもたらした.1970 年代以降の休耕・耕作放棄に伴う植生遷移は,鳥類の群集組成を大きく変化させた.水田性鳥類を保全するためには,有機栽培,冬期湛水,江や魚道の設置等の様々な環境保全型農業が有効であることが示唆された.これらの知見は,応用生態工学会の関係者が今後,水田生態系の保全を計画・実行する際に活用可能である.
著者
田原 大輔 青木 治男 中村 圭吾
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-17, 2019-07-28 (Released:2019-09-10)
参考文献数
42

本研究はこれまでに 4 回実施された九頭竜川のカマキリ(アユカケ)(地方名:アラレガコ)の調査データを整理し,本種の保全および再生の方策をまとめた.アラレガコ成魚は 12 月下旬から 3 月(産卵盛期は 1 月中旬から 3 月中旬)に河口内の水深 3 m 程の海水層または沿岸浅海域で確認された.仔稚魚は 2 ~ 4 月まで河口に隣接する砂浜海岸および河口内浅場で採集された.アラレガコ当歳魚は 4 ~ 8 月まで河川水際の浅場を成長しながら遡上していた.九頭竜川における現在の残された生息場は,河口から 23.0 ~ 29.4 km の中流域であった.国天然記念物である"九頭竜川のアラレガコ生息地"は,かつての生息範囲と比べて 1990 年代以降に約 1/3 に縮小化していた.アラレガコの主要な生息場および越冬場は,ともに早瀬および平瀬等の浮き石環境であった. 1990 年以降は全長 250 mm 以上の大型個体がアラレガコ伝統漁法でほとんど漁獲されていないことから,アラレガコの小型化が懸念された.本研究では 2 つの重要なアラレガコ保全策を提案する.一つ目は沿岸浅海域の環境および河川の浮き石環境を維持・創出していくこと,二つ目は鳴鹿大堰上流のかつての生息域には遺伝的多様性を有した稚魚を再導入することである.
著者
泉 北斗 根岸 淳二郎 三浦 一輝 伊藤 大雪 PONGSIVAPAI Pongpet
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-20, 2020-09-28 (Released:2020-11-30)
参考文献数
56
被引用文献数
1 1

本研究は,自然再生計画の具体化に向けて生態系保全のための情報蓄積が急務である石狩川の氾濫原水域を対象に,イシガイ目二枚貝の生息の現状と水域管理上の課題を明らかにすることを目的とした.複数種の現状について,生息水域タイプの選好性,繁殖時期の特定とともに採取個体数に対する妊卵の割合,近年の新規加入(再生産)の程度,そして再生産に重要である魚類への寄生状況の 4 項目を調べた.30 水域を人工短絡湖沼,自然短絡湖沼,後背湿地の 3 タイプに分類した.そのうち 27 水域においてベルトトランセクト法および方形区法を用いてヌマガイ,イシガイ,フネドブガイの生息数を推定した.また,12 水域を対象に,採取した個体の外鰓の観察により成熟・妊卵状況を確認した.さらに,自然短絡湖沼 4 水域で,採取した魚類から切除した鰭と鰓の観察により,グロキディウム幼生の寄生数を計数した.フネドブガイの採取個体数が最も多く,その他 2 種が少なかった後背湿地で CPUE の値が高かった.フネドブガイでは,未成熟個体の占める推定割合は低く,多くの水域で全体個体数の 3%程度以下であった.他 2 種も 1-2 水域以外では未成熟個体が確認されなかった.ヌマガイとイシガイは 7 月と 8 月に 15 .52%の個体で妊卵し,フネドブガイは 9 月から 11 月にかけて 3 .43%の個体が妊卵していた.魚類相は水域間でその構成に大きな差は見られなかったが,タイリクバラタナゴが各水域の魚類総個体数の 26 .0%から 70 .2%を占め共通して優占した.一方で,イシガイ類の幼生に寄生された個体は見つからなかった. 管理上の方策として成立要因・物理水文特性に基づく水域タイプを認識し,タイプの多様性を維持するように水域を管理していくことがイシガイ目の保全に重要であることが示唆された.また,イシガイ目の個体群の再生産が 2 年程度は停滞しており,その原因として水質の劣化と外来種が優占する魚類相が考えられた.したがって,管理上の課題として長期的な観点からイシガイ目の健全な個体群の維持に有効な対策を検討することが必要である.
著者
園田 陽一 倉本 宣
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.41-49, 2008 (Released:2008-09-10)
参考文献数
34
被引用文献数
13 7

本研究では,森林の孤立化が非飛翔性哺乳類の種組成に与える影響について明らかにすることを目的とした.調査対象地を,森林の孤立化の程度により,3つの孤立傾度(山地林,連続林,孤立林)に分類し,各孤立傾度あたり3ヶ所の調査地を選定した.2005年と2006年の4∼10月にかけて獣道に自動撮影カメラを設置し,非飛翔性哺乳類の種組成および存在量を分析した.各調査地における種の出現の有無をnMDSおよびクラスター分析により分析したところ,生息地利用タイプは(1)山地林に高い頻度で出現する山地性種,(2)山地林および連続林に出現する丘陵地性種,(3)山地林,連続林,孤立林のいずれにも出現する広域性種,(4)山地林および連続林に局所的に出現する局所性種の4タイプに分類された.また,孤立傾度が高まるにつれて種の豊富さは減少した.そのため,山地林や連続林は種の供給源として機能し,孤立林はジェネラリストの重要な生息地として機能する.生態的ネットワーク計画において,山地林や連続林はコアエリアとして作用し,孤立林はジェネラリスト的な哺乳類の拠点地区として作用すると考えられる.
著者
阿部 司
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.243-248, 2012 (Released:2013-04-24)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

Japanese kissing loach Parabotia curta (Cypriniformes, Botiidae) is one of the most endangered freshwater fishes in Japan. This species inhabits in a narrow region of western Honshu Island. The loach inhabits rivers and irrigation channels with gravel substrates hiding in crevices or holes, and spawns for a few days in the early rainy season at temporarily submerged, flooded grounds, which were originally very common lowland environments in monsoon Asia. However, recent artificial environmental changes, especially river improvements and farm land consolidation, have destroyed such environments and resulted in many local population extinction. Volunteers and Japanese/local governments are performing restoration and maintenance of artificial floodplains for the spawning as well as surveillance of poaching, but this loach is still critically endangered with some serious problems. In the agricultural area which has many restrictions, conservation techniques cannot be fully put to practical use. Although the technique of the ecology and civil engineering is effective for the restoration of floodplain environment and improvement of habitat, the sociological approach is crucial to utilize the technique in the local community.
著者
山本 敦也 菅野 貴久 町田 善康 中束 明佳 鈴木 雅也 田中 智一朗 金岩 稔
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.125-131, 2020-03-28 (Released:2020-04-25)
参考文献数
27

北海道美幌町内の小河川において越冬中の外来種ウチダザリガニ抱卵個体を選択的に捕獲することにより,より高い駆除効果を得ることを目的とし,ウチダザリガニの抱卵個体に電波発信器を装着して放流し,越冬中に再捕獲することによって越冬環境について調査を行った.同時に,ドローンに電波受信器を搭載して河道上空を飛行させることにより電波発信源をある程度特定し,その後指向性アンテナを用いて詳細な電波発信位置を特定する方法の開発も行った.2017 年 10 月に 3 個体に電波発信器を装着して放流し,同年 12 月にドローンと八木式アンテナを用いて 3 個体全ての越冬場所を特定,回収した.抱卵個体は河岸より 1-2 m,表土から 60-90 cm の地点の蛇行区間の内側の土中で発見され,越冬環境は蛇行区間の内側といった高水敷全体に広がるものと思われた.そのため,越冬中の抱卵個体の選択的な捕獲は現実的に不可能と思われた.一方で,ドローンと八木式アンテナを用いた電波発信源の特定方法は土中かつ水中でも有効であることが示され,今後の応用が期待される.
著者
田中 雄一 河村 年広 佐伯 晶子 加藤 久
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.9-16, 2018-07-28 (Released:2018-09-10)
参考文献数
26

本研究では,コンクリート製の農業水路に転落したカエル類の脱出対策を検討する上で重要な,脱出能力の種間差と脱出対策が必要な水路の摩耗程度を明らかにした.コンクリート製水路の摩耗程度の定量的指標である算術平均粗さ(Ra, mm)が 0.23,0.28,0.55 および 1.23 の 4 水準のコンクリート壁(供用年数 0 ~約 40 年)に対する脱出行動を室内実験により調査した.ヌマガエルとトノサマガエルは全てのコンクリート壁で 7.5%以上の個体が脱出したのに対して,ツチガエルは Ra が 0.23 では脱出がみられなかった.さらに,ナゴヤダルマガエルの脱出は Ra が 1.23 のコンクリート壁でのみでみられ,脱出率は 12.5%と低かった.したがって,これら 4 種の生息地域での水路からの脱出対策は,脱出能力が最も劣るナゴヤダルマガエルに着目すべきと考えられた.本種に着目する場合の脱出対策は,少なくとも Ra が 0.55 までは必要で,1.23 でも講じることが望ましいと推察された.なお,どの種も実験装置の四隅を登はんして脱出したため,本研究で示した Ra による基準は,コンクリート面が直交する形状を有する桝や鉄筋コンクリート組立柵きょ・直壁型(例:組立水路Ⅰ型)にのみ当てはまる.コンクリート面が直交しない形状の水路では,脱出が著しく困難になると推測されるため,水路の摩耗程度に関わらず脱出対策が必要なことが示唆された.
著者
中村 圭吾 天野 邦彦 Klement TOCKNER
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.201-214, 2006-01-30 (Released:2009-01-19)
参考文献数
64
被引用文献数
8 7

河川復元は,1990年代以降,先進国において数多く実施されるようになった.本稿では,ヨーロッパを中心として,世界の河川復元の現状を整理し,今後の河川復元にとって重要な研究分野及び日本の河川復元の課題について検討した.ヨーロッパについては,各国の特徴的な河川復元を紹介した後,河川復元の背景について考察し,頻発する洪水やEUの政策が河川復元を推進していることを説明した.アメリカは,大規模な河川復元の他にも小規模な河川復元が多数実施されており,河川復元技術のデータベースの作成も進行中であることを紹介した.また,オーストラリアや南アフリカの環境流量の研究について概説した.最後に,世界の研究の現状と日本の課題について(1)河川地形変化の捉え方,(2)流量のあり方,(3)情報の整理と分析,(4)自然再生型洪水対策の4つの観点から整理し,考察を行った.
著者
神宮字 寛 森 誠一 柴田 直子
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.169-177, 2003-02-28 (Released:2009-05-22)
参考文献数
22
被引用文献数
8 3

秋田県の農業用水路を対象に,維持管理作業がイバラトミヨ雄物型の営巣場所の環境条件に与える影響を調査し,営巣場所保全のための維持管理方法を検討した.維持管理作業を5月の上旬に1回実施した1999年と5月~8月まで月1回実施した2000年とで比較した結果,1999年に形成された総営巣数が36個であったのに対して,2000年は14個と大きく減少した。維持管理回数の多い条件下では,営巣場所の水位低下,流速増加,営巣の支柱となる水生植物が限定されるなど営巣場所の環境条件が変化した.以上のことから,営巣場所の保全と水路の流下能力を維持するための条件的管理方法として,保全区域を設定した維持管理方法を提示した.保全区域は,繁殖の想定される植生帯を有する50~60m区間および50~72m区間の右岸側のセキショウ群落帯とする.
著者
森 晃 水谷 正一 後藤 章
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.23-35, 2013-09-30 (Released:2013-11-29)
参考文献数
45

近年,ナマズの繁殖場である水田水域の生息環境は悪化し,その個体数は全国的に減少している.ナマズの保全のためには複数の生息地に及ぶ生活史を把握する必要があるが,生態に関する知見は少ないのが現状である.そこで,ナマズの河川における行動生態情報を収集するため,超音波テレメトリーを適用し,小河川において追跡調査を実施した.まず,発信機の装着が魚体に及ぼす影響を室内水槽において検討した.ナマズ成魚 6 尾にダミーを装着し 5 週間観察した結果,体重の減少は見られたが,ダミーの脱落および死亡した個体は見られなかった.また,装着個体を用いて人工産卵を試みたところ,正常に産卵し孵化仔魚の生産に成功した.これらの結果から,発信機装着による生存や繁殖に及ぼす影響は少なく,ナマズに対する装着法として,適用可能であると考えられた.次に水田地帯を流れる谷川において追跡調査を実施した.谷川において捕獲した 5 尾のナマズ成魚に発信機を装着したのちに放流し,複数の受信機を各所に設置し,受信範囲内の装着個体の行動を約 1 年間モニタリングした.結果として 5 個体のうち 3 個体は 100 日以上モニタリングすることができた.次に,受信データを解析したところ,装着個体の行動パターンに季節変化が生じた.秋季にかけて 2 尾の装着個体の信号は,夜間に多く受信され昼間はほとんど受信されない規則的なパターンを示した.これは,日中は巣内で休息し,夜間に巣外で行動していたという夜行性活動パターンであると考えられた.一方,冬季にかけて 3 尾の装着個体の信号は昼夜同程度受信されるパターンを示した.このことから,冬季には昼夜活動を維持していたと考えられた.今回の研究により,ナマズの行動生態の情報を収集することができたが,手法による限界も判明した.今後は電波テレメトリーを併用することによりナマズの保全の際に必要な基礎的な行動生態情報を収集することが必要である.
著者
村上 哲生 服部 典子 舟橋 純子 須田 ひろ実 八木 明彦
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.45-50, 2003-08-30 (Released:2009-05-22)
参考文献数
16

硫酸アンモニウム(硫安;(NH4)2SO4)は,スキー場の雪面硬化剤として,日本では良く使われている.1970年代より,スキー場開発が進められている長良川上流域(岐阜県)の渓流において,窒素汚染の実態を調査した.流域面積の50%をスキー場が占める渓流では,無機態窒素濃度と負荷量は冬季に著しく増加した.即ち,無機態窒素濃度は,降雪のない時期には約0.2mgL-1であったが,冬季には1.2mgL-1に達した.また,年間の無機態窒素負荷量に対する冬季の寄与率は70%と推定された.このような冬季における窒素濃度と負荷量の特異的な増加は,他の対照とした渓流では観測されなかった.硫安が散布されている時期においても,渓流の無機態窒素の90%以上が硝酸態であった.低温環境下でも硝化により,アンモニウムが硝酸に変化しているらしい.
著者
土岐 範彦 大杉 奉功 中沢 重一 鎌田 健太郎 熊澤 一正 浅見 和弘 中井 克樹
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.37-50, 2013
被引用文献数
1

福島県阿武隈川水系三春ダムの蛇石川前貯水池は,水質保全を目的として設置した前貯水池の一つであり,2006 年にはオオクチバスが優占していた.2006 年 10 月に水質保全の試験のため,前貯水池内の水を抜き,湖底を 2 ヶ月間干し上げた.その際,魚類の全量捕獲を行い,捕獲したオオクチバスは駆除し,在来魚等は再放流した.魚類の捕獲は前貯水池内で 2 箇所,前貯水池堤体下流で 1 箇所の計 3 箇所で行ったが,捕獲状況からオオクチバスは貯水池内に広く生息している傾向が示唆された.一方,ギンブナの小型個体は貯水池堤体近くの深いところに集まっている傾向がみられた.また,ギンブナとコイの大型個体はダム流入部付近の水深 2 m 以浅に生息している傾向がみられた.水抜きの 2 年後にはオオクチバスの個体数割合は 2006 年と同等になった.これは,流路沿い等に取り切れなかった個体が存在した可能性等が考えられる.他の事例同様,複数回の水抜きを行わないと完全駆除は困難と考えられた.
著者
速水 将人 石山 信雄 水本 寛基 神戸 崇 下田 和孝 三坂 尚行 卜部 浩一 長坂 晶子 長坂 有 小野 理 荒木 仁志 中嶋 信美 福島 路生
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.20-00043, (Released:2021-07-10)
参考文献数
47

河川上流域に多数設置された治山ダムは,渓流や森林の荒廃を防ぐ重要な役割を果たす一方で,渓流魚の河川内の自由な移動を阻害している.こうした状況に鑑み,河川生態系の保全を目的とした改良事業(魚道の設置,堤体の切り下げ)が国内の多くの治山ダムで実施されている.本研究では,北海道 3 河川に設置された治山ダムを対象に,魚道設置と切り下げによるダム改良工事が,その上下流の渓流魚類相に与える影響について,改良工事前後で行われた採捕調査によって検証した.同時に,ダム改良後の採捕結果と環境 DNA メタバーコーディングによる魚類相推定結果を比較し,治山ダム改良事業における環境 DNA メタバーコーディングを用いた魚類相推定の有効性を検討した.採捕調査の結果,治山ダムの改良事業によって,遡河回遊魚であるアメマスとサクラマスのダム上流への移動を可能にし,10 年後においても効果が確認された.環境 DNA メタバーコーディングでは,採捕された全 9 種に加え,採捕では確認されなか ったニジマスの計 10 種が検出され,治山ダム上下流に設定した各調査地点における遡河回遊魚のアメマス・サクラマスや,ハナカジカの採捕結果との一致率は 70-90 %であった.環境 DNA メタバーコーディングを治山ダム改良事業に適用する場合,評価対象魚種の特性や過去の採捕記録を考慮する必要はあるものの,改良前の治山ダムにおける魚類の遡上阻害の推定や,改良後の河川の魚類相・生息状況の推定に有効であることが示唆された.但し,治山ダムの切り下げを例にとると,遡上阻害の改善効果が維持される期間は工法によって異なる可能性もあり,正確な評価には様々な河川・工法を対象としたさらなる研究の蓄積が必要である.
著者
黒田 英明 西廣 淳 鷲谷 いづみ
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.21-36, 2009 (Released:2009-10-14)
参考文献数
45
被引用文献数
7 2

湖底の土砂中に含まれる散布体バンクは,湖岸植生を再生させる際の材料として有用であることが示唆されている.本研究では,湖内における土砂の採取場所間の種組成および密度の相違に影響する要因を明らかにするため,霞ヶ浦内の12地点の湖底土砂の散布体バンクを実生発生法実験により分析した.散布体バンクからは,全国版レッドリスト掲載種15種,沈水植物15種を含む,合計92分類群の維管束植物および車軸藻類が確認された.土砂採取地点付近の湖岸あるいは堤防法面に現存する植生と,散布体バンクの種組成を比較したところ,その類似性は低かった.散布体バンク中の在来の水生・湿生植物の種数および個体数に対する,土砂採取場所付近における過去の植生帯面積および現在の底質土砂の平均粒径の効果を,一般化線形混合モデルを用いて分析した.その結果,土砂の平均粒径による有意な負の効果が認められた.また,沈水植物の種数および個体数に対して,1970年代前半における沈水植物帯の面積による有意な正の効果が認められた.植生帯再生事業に用いる材料としての湖底の土砂中の散布体バンクの有効性が支持されるとともに,事業に有効な散布体を含む土砂を探索する上で,過去に存在した植生帯の面積や現在の湖底土砂の粒径組成が有用な手がかりとなることが示唆された.