著者
中村 太士
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.217-232, 2003-02-28 (Released:2009-05-22)
参考文献数
54
被引用文献数
31 29

河川・湿地生態系は,森林(植物群集)と河川の相互作用系,上流から下流に向けての土砂・有機物・栄養塩・熱エネルギーの流れ,洪水(土石流)攪乱や氾濫原によって特徴付けられる独特な生態系であり,自然復元にあたってはこれらの特徴を回復・維持することに主眼がおかれなければならない.現在,日本の河川・湿地生態系では,こうしたプロセスの分断と水域・陸域の生態系の分離が顕著である.復元(restoration)は「人為的攪乱以前の環境に戻すこと」として定義されるが,修復(rehabilitation)は「人為的影響が強く元に戻すことが不可能な場合,重要な機能と生息場環境を提供する自律した生態系をめざして改良すること」として定義される.日本の場合,土地利用的制約から後者を適用した方が良い場合が多い.自然復元計画における事前調査では,過去50年程度のデータをできるかぎり流域レベルで収集し,生態系の劣化をもたらしている要因を明らかにすることが重要である.自然再生事業に対しては,目的→目標→実施→評価(モニタリング)の手順を公開で進めることが必ず要求される.目標としては,周辺域で再生区の自然環境に等しく,未だ人為的影響を受けていない地域を選出することが望ましい.しかしこうした地域が存在しない場合,過去の空中写真や資料から目標像を描く以外方法はなく,北海道では1960年頃の景観が目標像となる可能性が高い.モニタリングによる評価方法としては,できる限りくり返しを持ったBefore(事前)-After(事後)-Reference(標準区)-Control(対象区)-Impact(再生区)(BARCI)で実施することが望ましい.復元計画でまず考えなければならないことは,事前調査で明らかになった生態系の劣化を進めている制御・制限要因を取り除くことであり,回復力のある生態系はこれだけで元に戻ることができる.人間が積極的にかかわって工事を実施し自然にもどそうとする行為は,最終的な手段である.釧路湿原の保全計画では,水辺林・土砂調整地による流域負荷量の軽減,ならびに蛇行氾濫原・湿地の復元などが計画されている.現在,湛水実験によるハンノキ林の制御,湿原再生のためのBARCIの実施,さらにデータベースの構築とWebによる公開をめざしている.標津川では蛇行河川ならびに氾濫原再生をめざして,過去のデータの収集と目標像の設定を行った.現在は,河跡湖を一部本川と連結する実験を行っており,河床変動,栄養段階,魚類,植生,水質,地下水などの観点から蛇行流路復元の効果が明らかになると思われる.

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