著者
今本 博臣 後藤 浩一 白井 明夫 鷲谷 いづみ
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-14, 2003-08-30 (Released:2009-05-22)
参考文献数
12
被引用文献数
6 5

1998~2000年にかけて公団管理15ダムの無土壌岩盤法面で,植生調査および毎木調査を実施し,以下の結果を得た。調査区は無土壌岩盤が19カ所,林縁部が4カ所,対比区が3カ所であった.・外来牧草主体の緑化工を実施した地区は,施工後20年以上経過しても依然として外来牧草が優占しており,在来種への移行がほとんどみられなかった.・緑化工を実施していない地区は,施工後20年以上経過すると,アカマツ,ハリエンジュ,ハゼノキ,アカメガシワ,ヌルデ,リョウブ等の先駆性樹種を中心とした樹林に移行していた.・在来種の中ではアカメガシワ,リョウブ,アカマツ,ヌルデが,岩,れき質といった植生の生育基盤としてもっとも悪い場所においても良好な生育を示した.・無土壌岩盤法面における生育樹種は,基盤条件が大きな影響を与えているという傾向が見られた.・植物の多様度は,外来牧草主体の緑化工を実施した調査区で低く,緑化工を実施していない調査区および緑化工を実施した林縁部で高かった.
著者
神宮字 寛 森 誠一 柴田 直子
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.169-177, 2003-02-28 (Released:2009-05-22)
参考文献数
22
被引用文献数
8 3

秋田県の農業用水路を対象に,維持管理作業がイバラトミヨ雄物型の営巣場所の環境条件に与える影響を調査し,営巣場所保全のための維持管理方法を検討した.維持管理作業を5月の上旬に1回実施した1999年と5月~8月まで月1回実施した2000年とで比較した結果,1999年に形成された総営巣数が36個であったのに対して,2000年は14個と大きく減少した。維持管理回数の多い条件下では,営巣場所の水位低下,流速増加,営巣の支柱となる水生植物が限定されるなど営巣場所の環境条件が変化した.以上のことから,営巣場所の保全と水路の流下能力を維持するための条件的管理方法として,保全区域を設定した維持管理方法を提示した.保全区域は,繁殖の想定される植生帯を有する50~60m区間および50~72m区間の右岸側のセキショウ群落帯とする.
著者
村上 哲生 服部 典子 舟橋 純子 須田 ひろ実 八木 明彦
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.45-50, 2003-08-30 (Released:2009-05-22)
参考文献数
16

硫酸アンモニウム(硫安;(NH4)2SO4)は,スキー場の雪面硬化剤として,日本では良く使われている.1970年代より,スキー場開発が進められている長良川上流域(岐阜県)の渓流において,窒素汚染の実態を調査した.流域面積の50%をスキー場が占める渓流では,無機態窒素濃度と負荷量は冬季に著しく増加した.即ち,無機態窒素濃度は,降雪のない時期には約0.2mgL-1であったが,冬季には1.2mgL-1に達した.また,年間の無機態窒素負荷量に対する冬季の寄与率は70%と推定された.このような冬季における窒素濃度と負荷量の特異的な増加は,他の対照とした渓流では観測されなかった.硫安が散布されている時期においても,渓流の無機態窒素の90%以上が硝酸態であった.低温環境下でも硝化により,アンモニウムが硝酸に変化しているらしい.
著者
土岐 範彦 大杉 奉功 中沢 重一 鎌田 健太郎 熊澤 一正 浅見 和弘 中井 克樹
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.37-50, 2013
被引用文献数
1

福島県阿武隈川水系三春ダムの蛇石川前貯水池は,水質保全を目的として設置した前貯水池の一つであり,2006 年にはオオクチバスが優占していた.2006 年 10 月に水質保全の試験のため,前貯水池内の水を抜き,湖底を 2 ヶ月間干し上げた.その際,魚類の全量捕獲を行い,捕獲したオオクチバスは駆除し,在来魚等は再放流した.魚類の捕獲は前貯水池内で 2 箇所,前貯水池堤体下流で 1 箇所の計 3 箇所で行ったが,捕獲状況からオオクチバスは貯水池内に広く生息している傾向が示唆された.一方,ギンブナの小型個体は貯水池堤体近くの深いところに集まっている傾向がみられた.また,ギンブナとコイの大型個体はダム流入部付近の水深 2 m 以浅に生息している傾向がみられた.水抜きの 2 年後にはオオクチバスの個体数割合は 2006 年と同等になった.これは,流路沿い等に取り切れなかった個体が存在した可能性等が考えられる.他の事例同様,複数回の水抜きを行わないと完全駆除は困難と考えられた.
著者
小林 哲
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.113-130, 2000-07-21 (Released:2009-05-22)
参考文献数
98
被引用文献数
24 22

日本の本州・四国・九州などを流れる河川に生息するカニ類の生態をまとめ,河川環境におけるカニ類の生態的地位と現状について考察を加えた.カニ各種の分布と回遊のパターンから,6タイプを分けた.タイプAとタイプBは感潮域付近でのみカニ期を過ごし,タイプAは繁殖のための回遊はないがタイプBは繁殖のため河口域から海域へ水中を移動する.タイプCとタイプDはカニ期を感潮域から淡水域に沿った陸域で過ごし,タイプCは河川の淡水域から感潮域にかけてで卵を孵化させ,幼生は広い塩分耐性があり感潮域へと流れくだる.タイプDは繁殖のためカニが海域へと移動し,海域で孵化を行う,タイプEは河川の淡水域でカニ期を過ごし,成熟したカニが川を降り感潮域に達しそこで繁殖する.これらのタイプはいずれも浮遊生活期の幼生が海域を分散する.タイプFは全生活史を淡水域上流部で過ごし,幼生期は短縮される.河川ではカニの分布は感潮域周辺に集中している.干潟に多くみられるスナガニ類は底質の粒度組成に応じてすみわけており,ヨシ原など後背湿地にはイワガニ類が多く出現する.淡水域の下流~中流域では,モクズガニが水中に,ベンケイガニ類3種(ベンケイガニ,クロベンケイガニ,アカテガニ)が水辺から陸上に出現する.上流域では,サワガニが水中から陸上にかけて分布する.代表的なスナガニ科8種,コブシガニ科1種イワガニ科10種,サワガニ科1種についての生態をまとめ,紹介した.河川生態系においては,カニ類は感潮域で腐食連鎖の上で重要な位置を占めていると考えられる.特にスナガニ類およびイワガニ類は,感潮域において有機物を消費している.また巣穴を多数掘ることで堆積物に沈積した有機物の分解を助け,環境浄化を助けている.近年,底質の変化によりカニ類の生息場所が損なわれ,堰の建設による流れの遮断により回遊の過程が妨害を受けている.河川改修による後背湿地における植生の喪失も,カニ類の生息場所を奪う危険性がある.以上のような,カニ類の生態を考慮に入れた改修事業が必要と考えられる.
著者
東 信行
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.87-90, 2001-07-17 (Released:2009-05-22)
参考文献数
11
著者
佐川 志朗 萱場 祐一 皆川 朋子 河口 洋一
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 = Ecology and civil engineering (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.193-199, 2006-01-30
参考文献数
21
被引用文献数
2 4

本研究は,水面幅約3mの直線河道を呈する実験河川において,24調査区における努力量を統一させた魚類捕獲調査を行い,エレクトリックショッカーの捕獲効率を算出し,各種に対するショッカーの効用および効果的な魚類捕獲の方法について考察することを目的とした.調査の結果,底生魚および遊泳魚ともに捕獲効率が高い種および低い種が存在し,前者としては,アユ,ドジョウおよびシマドジョウ属が,後者としては,オイカワ,タモロコおよびヨシノボリ属が該当した.オイカワおよびタモロコの捕獲効率が低かった原因としては,第1年級群である40mm以下の小型個体の発見率が小さかったことが示唆された.また,ヨシノボリ属については,微生息場所である河床間隙中で感電した個体が発見できなかったために,第1,第2年級群を含めた全サイズ区分にわたって捕獲効率が低かったことが考えられた.ヨシノボリ属やコイ科魚類の稚仔魚が分布する河川でショッカーを用いて捕獲を行う際には,たも網を用いて感電個体をすくい捕るのと併せて,あらかじめ通電する箇所の下流に目の細かいさで網を設置しておき,すくい捕りのすぐ後に,足で石を退かせながら水をさで網に押し入れるような捕獲方法を併用することが望ましい.今後は,本邦産魚類の各種に対して,様々な水質条件,ショッカー設定下での捕獲効率を明らかにするとともに,各魚類の成長段階ごとにショッカーの影響程度を把握し,効果的で魚類個体群への影響を最小限とする魚類捕獲手法の検討を行う必要がある.
著者
高橋 剛一郎
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 = Ecology and civil engineering (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.199-208, 2000-12-21
参考文献数
26
被引用文献数
7 5

魚道の機能評価について,従来の評価を概観し,望ましい評価のあり方を考察した.魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業(1991)以降,魚道が多数造られた1994年以降に砂防学会で発表された魚道関係の講演や論文を調べたところ,限定的な条件下での遡上実験によって効果を推定するものが大半であった.大ダムである小牧ダムの魚道は,魚を遡上させることは可能であったが,最終的に失敗に終わり,単に魚を遡上させること以外のさまざまな要素が関係していることが示唆された.現在の魚道技術の粋を集めて造られた長良川河口堰の魚道については,設置者側が魚道を遡上した魚の個体数などをもとに効果があるとしているものの,独自に魚道の効果や堰の影響を調査している研究者らはアユ,サツキマスなどの生態への堰の影響は大きいとし,魚道の効果に対し厳しい評価をしている.このように,従来の魚道の評価の多くは限定的な条件下での遡上実験によるなど,魚道の機能の一部を取り上げたものであり,これでは不十分である.本来そこに生息していた魚が,特別の保護手段なしに世代交代できる環境を保証するという理念に照らせば,魚の生活にどのような影響を与えているかという総合的な評価が必要である.実際的な調査として,個体群動態に基づいた手法を提案する.水系といったまとまった地域における魚の全体的な分布,季節的な分布・移動や年齢構成・性比などを把握することにより,ダムや魚道の影響を総合的に評価することができる.個体群生態学に基づいた調査の指針を開発すべきである.
著者
香川 尚徳
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.141-151, 1999-11-19 (Released:2010-03-03)
参考文献数
72
被引用文献数
7 5

本総説では,はじめに,過去20年間に提唱された河川生態系に関する三つの重要な概念すなわち,河川連続体,不連続結合,栄養素らせんの各概念と,それらの概念によるダムの取り扱い方とを概観した.次に,これらの概念に基づき,ダムを河川連続体に対する不連続発生の場とみなす立場で,ダムによる河川水質の変化,すなわち,不連続発生の実状を,ダム下流の河川生態系に及ぼす影響を考慮しつつ,水温,粒子状物質,クロロフィルa,栄養素,嫌気的水質環境の5項目について検討した.最後に,不連続軽減対策について,ダム湖水の滞留時間を短くして河川的性質を保つことは必ずしも出来ることではないので,下流の生態系に重大な影響を与える水質変化を中心に不連続発生を軽減することが現実的であると考察した.特に,自然に備わった水の動きや物質を利用することが望ましいとの観点に立って,富栄養化対策における二つの方法,密度流と選択取水の統合的利用と分解中の麦藁や落葉落枝が示す藻類増殖阻止作用の利用とを今後の検討課題にあげた.
著者
棗田 孝晴 大木 智矢
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.119-125, 2014
被引用文献数
4

千葉県北東部の谷津田で,トウキョウサンショウオ (<i>Hynobius tokyoensis</i>) の産卵場の分布と産卵場の周辺環境に関する調査を 2012 年に行った.3 月中旬から 4 月下旬にかけて 50 か所の産卵場が確認された.産卵場ごとの発見卵嚢数は 1 ~ 52 個の範囲 (平均 9.4 個) で,卵嚢数 10 個未満の少規模産卵場が全体の 70%以上を占めていた.産卵後の成体の再上陸および幼生の成長・変態後の上陸に関係すると考えられる水路幅,水深,堆積物深さ,斜面林距離,水路岸の勾配及び産卵場の面積の 6 変数を基にした一般化線形モデルの解析結果から,斜面林距離が本種の卵嚢数に有意な負の影響を及ぼすことが示された.変態後の幼体及び成体の通常の生息場所である斜面林と産卵場である水場との間の空間的な連続性を微視的スケールで保持することが,本種の個体群を存続させる上で重要と考えられた.
著者
中村 太士
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.217-232, 2003-02-28 (Released:2009-05-22)
参考文献数
54
被引用文献数
31 29

河川・湿地生態系は,森林(植物群集)と河川の相互作用系,上流から下流に向けての土砂・有機物・栄養塩・熱エネルギーの流れ,洪水(土石流)攪乱や氾濫原によって特徴付けられる独特な生態系であり,自然復元にあたってはこれらの特徴を回復・維持することに主眼がおかれなければならない.現在,日本の河川・湿地生態系では,こうしたプロセスの分断と水域・陸域の生態系の分離が顕著である.復元(restoration)は「人為的攪乱以前の環境に戻すこと」として定義されるが,修復(rehabilitation)は「人為的影響が強く元に戻すことが不可能な場合,重要な機能と生息場環境を提供する自律した生態系をめざして改良すること」として定義される.日本の場合,土地利用的制約から後者を適用した方が良い場合が多い.自然復元計画における事前調査では,過去50年程度のデータをできるかぎり流域レベルで収集し,生態系の劣化をもたらしている要因を明らかにすることが重要である.自然再生事業に対しては,目的→目標→実施→評価(モニタリング)の手順を公開で進めることが必ず要求される.目標としては,周辺域で再生区の自然環境に等しく,未だ人為的影響を受けていない地域を選出することが望ましい.しかしこうした地域が存在しない場合,過去の空中写真や資料から目標像を描く以外方法はなく,北海道では1960年頃の景観が目標像となる可能性が高い.モニタリングによる評価方法としては,できる限りくり返しを持ったBefore(事前)-After(事後)-Reference(標準区)-Control(対象区)-Impact(再生区)(BARCI)で実施することが望ましい.復元計画でまず考えなければならないことは,事前調査で明らかになった生態系の劣化を進めている制御・制限要因を取り除くことであり,回復力のある生態系はこれだけで元に戻ることができる.人間が積極的にかかわって工事を実施し自然にもどそうとする行為は,最終的な手段である.釧路湿原の保全計画では,水辺林・土砂調整地による流域負荷量の軽減,ならびに蛇行氾濫原・湿地の復元などが計画されている.現在,湛水実験によるハンノキ林の制御,湿原再生のためのBARCIの実施,さらにデータベースの構築とWebによる公開をめざしている.標津川では蛇行河川ならびに氾濫原再生をめざして,過去のデータの収集と目標像の設定を行った.現在は,河跡湖を一部本川と連結する実験を行っており,河床変動,栄養段階,魚類,植生,水質,地下水などの観点から蛇行流路復元の効果が明らかになると思われる.
著者
渡辺 恵三 中村 太士 加村 邦茂 山田 浩之 渡邊 康玄 土屋 進
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.133-146, 2001-12-27 (Released:2009-05-22)
参考文献数
55
被引用文献数
24 21

本研究では河川構造の空間スケールの階層性および関連性に着目し,河川改修が底生魚類の分布よび生息環境におよぼす影響を明らかにすることを目的とした.調査は,1998年9月から1999年9月までの1年間,石狩川水系真駒内川において施設整備の異なる約2km区間を河道区間スケール(護岸区間,自然区間,流路工区間)として設定し,各区間を通過する物質量を測定した.さらに各河道区間内において瀬と淵を流路単位スケールとして設定し,各流路単位における底生魚類と生息環境の関係の解析をおこなった.ハナカジカの生息密度は,自然区間,護岸区間に比べて流路工区間で著しく低かった.しかし,フクドジョウの生息密度は河道区間による差はみられなかった。パナカジカの生息密度が低かった流路工区間では自然区間,護岸区間と比較して河床の特性に違いが認められ,特に小粒径砂礫が多く,浮き石が少なかった.また,ハナカジカの生息密度は,巨礫と浮き石の割合に強い正の相関が認められた.このことから,流路工区間で生息密度が低かったのは,生息環境や産卵環境および避難場所として利用可能な巨礫や浮き石の減少によるものと考えられた.流路工区間の瀬において巨礫や浮き石の割合が自然区間および護岸区間に比べて低かったのは,河道区間スケールの影響として増水時における掃流力の低下にともなう小粒径砂礫の堆積および河床が動きづらくなったことすなわち攪乱が起こりにくくなったことが考えられた.さらに,流路単位スケールにおいては,平水時における微細粒子の被覆・堆積によるものと考えられた.このように,河道区間スケールおよび流路単位スケールの階層性のある各空間スケールに関連した要因によって,ハナカジカの主な生息場所である瀬の河床材料およびその状態が改変した結果,流路工区間においてハナカジカの生息密度は低かったと考えられる。
著者
土屋 十圀
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.21-27, 1999-05-31 (Released:2009-05-22)
参考文献数
22
被引用文献数
3 1

最近,多自然型川づくりは実施事例も重ねて随分洗練されてきた.しかし,在来種の植生を使ったり,市街化以前の生息環境を目標とするなどよい方向にあるが,未だ,巨石を使いすぎたり,低水路部を固め強制的に蛇行させるといった事例も見られる.また,河川周辺環境を考慮せずエコデザインのコンセプトを曖昧のまま実施すると箱庭的な川づくりになることがある.したがって,河川の流域特性,背後地の環境などその地域のプリミティブな自然度,多様度を基本に考えないと工法だけに特化して過剰な手を加えることもある.自然復元,再自然化のもつその場所,その地域の意味付け,考え方を明確にする必要がある.また,多自然型工法は施工後の生態系の変化を長期的に観察し,各種工法を十分検証するまでには至っていない.多自然型の川づくりの適用に当たってはマニュアル化ができにくいために大河川と中小河川,農山村地域と都市域の違いなど川の個性や流域特性を十分考慮することが最も重要な観点であることを述べた.本報ではこれまでの河川生態系に関する文献,知見から河川生態系の撹乱と要因に関して整理した.その中で自然的な撹乱,人為的な撹乱の要因を示し,区分して見ることの重要性を示した.また,多自然型川づくりの個別の工法だけに目を奪われることなく流域全体からその手法の適用方法を考えることの重要性について矢作川,アメリカのキスミー川の事例を取り上げて解説した.更に,ヨシを保全している中小河川の複断面河道の水理模型実験による検討事例を取り上げた.低水河岸にヨシ帯のある場合,粗度係数の増加を伴い,最大で計画流量の約70%程度の流量しか流れないことを示した.従って,多自然型川づくりの今後の適用方法と課題はエコデザインとしての目標を明確化するとともに粗度係数の増加に伴う河川計画との調整の重要性に関して指摘し,考察した.
著者
田中 祥人 山田 浩之
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 = Ecology and civil engineering (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.91-101, 2011-12-31
参考文献数
29

2006年に北海道北部に国内で 2 基目となるハイブリッド伏流式人工湿地が設置された.自然の浄化能力を応用したこの湿地は,浄化能力の高さが認められ,最近注目を集めている.しかし,その処理水は依然として高い環境負荷を持っていることが考えられ,それが流入する河川の生物生息場環境の悪化が懸念される.この人工湿地だけではなく水系全体として浄化機能を発揮し,更なる環境との調和を展開するためには,その処理水の流入河川の生物の生息場所を悪化させないように,河川の浄化能力に適した処理水の負荷量に設定される必要がある.しかし,そうした高負荷の処理水が流入する小河川での水環境や生物相に関する報告は限られていることから,まずはその処理水の影響について事例を蓄積しておく必要がある.そこで,本研究では人工湿地の処理水が流入する酪農地域の小河川で水環境および生物相の実態を把握し,さらに生残実験によって処理水が水生生物に及ぼす影響について検討することを目的とした.生物相・生息場所環境調査の結果,処理水の流入する下流区間ではその上流区間と比べて DO 濃度が低く,NH<sub>4</sub><sup>+</sup> 濃度,COD 濃度が高いことがわかった.また,出現する生物種は少なく,極めて貧弱な生物相であることがわかった.下流区間のみで低酸素の環境に耐性をもつユスリカ科の一種が優占していたのも特徴的であった.調査地近隣に生息しているオオエゾヨコエビ,スジエビ,ドジョウの 3 種を対象に生残実験を行った.その結果,各種の生残率は上流と比べて下流区間で低くなった.各種生残率と環境変量に対して相関分析を行った結果,各種生残率は DO 濃度,NH<sub>4</sub><sup>+</sup> 濃度,COD との間に強い相関が認められた.これは有機物の酸素消費に伴う DO 濃度低下と NH<sub>3</sub> 毒性の影響によるものと考えられた.対象河川の生物種が少なかったのは,人工湿地運用前の有機汚濁の影響が大きいと考えられる.しかし,生残実験結果から処理水流入にともなう溶存酸素低下やアンモニアの毒性など,運用後も生物の生存を制限する要因が残存していることがわかった.今後は酪農雑排水に起因する有機汚濁の生物相に対する影響や生物の耐性をさらに詳しく調べるとともに,物質収支解析などの定量評価に基づいて,処理水放流による自然河川の変化を予測できるようにする必要がある.それらを踏まえて,河川の浄化能力に収まる処理水の負荷量が設定されることが望まれる.
著者
西田 守一 浅見 和弘 荒井 秋晴
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.107-117, 2014

制限水位方式により運用されている三春ダム貯水池湖岸において,貯水池の水位低下により洪水期のみに出現する水位変動域の小型哺乳類による利用を明らかにした.水位変動域と通年陸域において捕獲・再捕獲調査を行った結果,208 個体のアカネズミと 2 個体のヒミズが捕獲された.水位変動域において,アカネズミは貯水池の水位低下直後の植生が乏しい (植被率 25%未満) 時期でも捕獲され,植被率の増加に伴い捕獲率は増加した.また,水位変動域で捕獲,再捕獲された個体が確認されたことから,水位変動域の利用は一時的なものではないと考えられる.アカネズミ捕獲率は,水位変動域と通年陸域で大きな差はなかったことから,水位変動域はアカネズミの生息地として機能すると考えられる.
著者
藤本 泰文 久保田 龍二 進東 健太郎 高橋 清孝
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.213-219, 2012
被引用文献数
3 1

オオクチバスとブルーギルは,日本各地に移殖された外来魚で,ため池はその主要な生息場所となっている.本研究では,オオクチバスおよびブルーギルのため池からの用排水路を通じた移出状況を調査した.私たちは宮城県北部に位置する照越ため池の用水路と排水路に,ため池から流出した魚類を捕獲するトラップを設置した.4 月下旬から 7 月下旬の調査期間中,これらの外来魚は用水路と排水路の両方から何回も流出しており,その流出のタイミングは,それぞれの水路の通水期間に限られていた.体長 125 mm の成魚のブルーギルも流出していた.ため池の魚類生息数を池干しによって調査した結果,ため池に生息する外来魚のうち,オオクチバスは 4. 0%,ブルーギルは 7. 1%が流出していたことが示された.外来魚の流出は繰り返し生じ,生息個体数の数%が流出していたことから,外来魚の流出は稀な現象ではなく一般的な現象である可能性が高い.この結果は,ため池が下流域への外来魚供給源となっていることを示す.周辺地域への被害拡大を防ぐためにも,ため池の外来魚の駆除は重要だと言える.