著者
小林 誠 渡邊 定元
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.18, 2004 (Released:2004-07-30)

北海道の黒松内低地帯には,日本の冷温帯域の主要構成種であるブナ(Fagus crenata)の分布北限域が形成され,以北(以東)の冷温帯域には,ミズナラなどの温帯性広葉樹と針葉樹とからなる針広混交林が広く成立している。この現在のブナの分布域と分布可能領域との不一致については,様々な時間・空間スケール,生態学的・分布論的研究アプローチによってその説明が試みられてきている。 植生帯の境界域においてブナや針広混交林構成種には,どのような生態的特徴,個体群の維持機構が見られるのだろうか?植生帯の境界域におけるこれら構成種の種特性を明らかにすることは,植生帯の境界域形成機構の解明に際して,重要な知見を与えるだろう。これまで渡邊・芝野(1987),日浦(1990),北畠(2002)などによって,北限のブナ林における個体群・群集スケールの動態が明らかになりつつある。本研究ではこれら従来の知見を基礎とし,最北限の「ツバメの沢ブナ保護林」における調査によってブナとミズナラの動態を検討した。 ツバメの沢ブナ林においてブナ林は北西斜面に,ミズナラ林は尾根部に成立し,両者の間には混交林が成立している。1986年に設定された調査区の再測定と稚幼樹の分布調査から,(1)ブナとミズナラの加入・枯死傾向は大きく異なり,ブナは高い加入率と中程度の枯死率で位置づけられたが,ミズナラは加入・枯死率ともに小さかった。(2)ブナの稚幼樹はブナ林内・ミズナラ林内においても多数見られ,ブナのサイズ構造からも連続的な更新が示唆されたが,ミズナラの稚幼樹はほとんど見られなかった。(3)ブナは調査区内において分布範囲の拡大が見られたが,ミズナラには見られないことなどが明らかになった。これらのことは,分布最北限のブナ林においてブナは個体群を維持・拡大しているのに対し,ミズナラの更新は少なく,ブナに比べ16年間における個体群構造の変化は小さいことが明らかになった。

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