著者
伊藤 直子 渡辺 修一郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.364-374, 2017-07-25 (Released:2017-08-29)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

目的:呼気筋訓練(Expiratory Muscle Strength Training:以下EMST)は,呼吸筋力や咳嗽能力を向上させるだけではなく,嚥下機能や発声機能を向上させる効果も期待されている.本研究では,地域在宅高齢者を対象としてEMSTを実施し,口腔機能および呼吸機能に及ぼす効果を明らかにする.方法:通所リハビリテーションを利用中の高齢者より対象を募り,応募者のうち介入群31名(76.2±5.1歳),対照群15名(78.1±6.5歳)とした.介入群に対しては,最大呼気圧の75%負荷圧のEMSTを5回を1セットとして1日5セット,毎日8週間継続させた.口腔機能の評価には3回唾液嚥下時間,舌上の湿潤度,舌圧,オーラル・ディアドコキネシス(Oral Diadochokinesis:OD)最大発声持続時間(Maximum Phonation Time:MPT),呼吸機能の評価は最大呼気圧(Maximum Expiratory Pressure:PEmax)および最大吸気圧(Maximum Inspiratory Pressure:PImax)を用いた.介入群と対照群のEMST前後の比較は,対応のあるt検定を用いた.さらに,介入効果を検討するために性別,年齢,ベースライン時の値を調整した一般線形モデルを用いた分析を行った.結果:3回唾液嚥下時間は,介入群の嚥下時間の短縮がみられ,性別,年齢およびベースライン値を調整後の比較においてもその差は有意であった.MPTは,介入群では平均2.1秒増加したのに対し,対照群では平均0.4秒減少しており,その差は有意であった.PEmaxは,介入群で平均5.7 cmH2O増加したのに対し,対照群では平均4.6 cmH2O減少しており,その差は有意であった.PImaxにおいても介入群は平均r544.0 cmH2O増加したのに対し,対照群では平均6.4 cmH2O減少しておりその差は有意であった.結論:EMSTは地域在宅高齢者の口腔機能および呼吸筋機能を向上させることが示唆された.嚥下・発声および呼吸に要する通路は一部共有し機能しており,呼気時に舌骨筋群等の収縮を繰り返し行うことで嚥下時間の短縮につながったのではないかと考えられた.また,発声時間については,EMSTにより呼気の保持時間が増し,発声の持続力を強化したことが考えられた.

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