著者
坂井 麻里子 柏木 敏宏 江口 香織 西川 隆
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.233-241, 2015-06-30 (Released:2016-07-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

非失語性の失書を伴うタイピングの障害を呈した症例を報告した。症例は 69 歳,右手利き男性, 脳梗塞により発症した。病前はパソコン操作に習熟し, ブラインドタッチが可能であり打鍵速度は書字より格段に速かったが, 発症後, 失書とともにタイピングの障害を認めタイピング速度も低下した。失語, 失読, 失行や構成障害は認めなかった。失書では音韻選択・配列の問題はなく, 「文字運動覚心像」の表出面の障害,すなわち「運動覚性失書」と考えられた。タイピングの誤りにも音韻選択・配列の問題はなく, ほとんどが打鍵位置の空間的誤りであり, 「タイピング運動覚」の障害に基づくものと考えられた。 本例の病巣は左中心前回,角回皮質から皮質下, 上・下頭頂小葉であり, 書字における音韻選択や配列に関わるとされる左中前頭回後方部に病変は認めなかった。タイピングは書字の過程と神経基盤の一部を共有しており, 本例では書字運動に関わる部位が損傷されたことにより, タイピングにも書字と類似した誤りが出現したと推測される。

言及状況

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文字入力の際、たまに母音と子音の順番を間違える。どういう脳の仕組みなのかと思い調べたら、その方面の研究があると知った。 タイプライティングの障害とその神経基盤について https://t.co/AvBTZiWeD7 非失語性失書を合併したタイピング障害の一例─失書との関連─ https://t.co/Z9B57VgaVi

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