著者
松井 富美男
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.58-62, 2003-09-18 (Released:2017-04-27)
参考文献数
8

「人間の尊厳」の語はひんぱんに使用されるわりには概してあいまいである。人間の尊厳があいまいなのは人間の概念があいまいだからである。にもかかわらず、人間の尊厳は歴史的体験性に裏づけられた、まさにドイツ的な了解概念であって、それ自身がさらなる根拠を必要としないのは明らかである。ここでは人間の尊厳は以下のように規定される。第一には、人間は「神の似姿」として創造されたというキリスト教的言説をもとにすれば、人間の尊厳は少なくとも「差異化」と「水平化」の二重機能を有する。第二には、人間の尊厳はその文脈に応じて「生」にかかわるだけでなく「死」にもかかわる。人間の尊厳はこの点で生命の尊厳から明確に区別される。第三には、人間の尊厳は道具化禁令として、すなわちカントの人間性の定言命法として定式化される。しかしこの原理をもってしても育成目的のクローン人間を阻止することはできないであろう。このような場合には、「偶然性」「不確実性」「不完全性」「自然性」などの諸要素を加えて人間像を再構築し、新たに「人間的善」を追求する必要がある。

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