- 著者
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星 瑞希
- 出版者
- 日本質的心理学会
- 雑誌
- 質的心理学研究 (ISSN:24357065)
- 巻号頁・発行日
- vol.22, no.1, pp.83-101, 2023 (Released:2023-04-01)
本研究では,主権者育成を目標とする歴史授業を高校生がいかに意味づけたのかを,学習文脈と生徒の特性に着目して明らかにする。高校教師である筆者の授業を受けた高校生全員に対し質問紙調査と,そのうち18 名に半構造化面接を行い,M–GTA を用いて,意味づけのプロセスを明らかにした。暗記することに執着がある生徒以外は筆者の主権者育成を目標とする歴史授業を肯定的に意味づけていることが明らかになった。肯定的に意味づけている生徒は歴史事象と現代社会を関連づけたり,現代の歴史論争問題に関与したりすることを肯定的に意味づけ,歴史を学ぶ意味を実感していた。調査校では多大な歴史知識の暗記が求められる受験を意識しない学びが許容されている一方で,多くの歴史授業では生徒が多大な歴史知識を暗記することを評価している。そのため,暗記が苦手な生徒は多大な知識の暗記を要求しない筆者の歴史授業を肯定的に意味づけている。これに対し,暗記が得意でこれまでの試験で充分な試験の得点を取ってきた生徒は,筆者の試験でも充分な得点が取れる場合には,筆者の授業を否定的に意味づけることはなかったが,充分な得点が取れない場合は,筆者の授業を否定的に意味づけている。歴史マンガや家族との歴史談笑を好む生徒は,筆者の意図とは異なり歴史事象と現代を関連づけることをあまり肯定的には意味づけておらず,過去を学ぶこと自体を肯定的に意味づけていることが明らかになった。