著者
竹家 一美
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.118-137, 2008 (Released:2020-07-06)
被引用文献数
1

生殖補助医療の急速な進展は,不妊に苦悩する女性たちに,希望と残酷な可能性の両方をもたらしてしまった。不妊治療は「先の見えないトンネル」ともいわれ,治療の結果,子どもを持てる確率は非常に低いのが現実である。不妊治療は妊娠・出産を迎えなければ完了せず,治療の継続・断念は当事者に一任される。本研究では,不妊治療を経験したうえで「子どもを持たない人生」を選択した女性 9 名との半構造化面接を通して,「子どもを持たない人生」を受容するプロセスを明らかにし,彼女たちの人生における不妊治療経験の意味を検討することを目的とした。対象者の語りは「不妊治療初期」「不妊治療集中期」「不妊治療終結期」の 3 つの時期に分けられたが,女性たちの心の変容プロセスは段階的,画一的なものではありえず,個別的で多様性にみちていた。また,対象者の語りにおいて不妊治療の経験は,「受容感の拡大」「価値観の転換」「治療の意味づけの変更」「生成継承性の芽生え」に繋がるものとして意味づけられていた。不妊治療終結期以降,不妊に苦悩した女性たちは,「社会化」を実現することによって不妊を乗り越えていた。生涯発達的観点からみると,彼女たちの語りには,肯定的な意味づけと発達的な一側面が示唆されていると思われた。

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