- 著者
-
白井 杏湖
- 出版者
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
- 巻号頁・発行日
- vol.126, no.1, pp.12-15, 2023-01-20 (Released:2023-02-01)
- 参考文献数
- 8
2017年に成人人工内耳 (以下CI) 適応基準が改訂され, 平均聴力レベルが 70dB 以上で, 補聴器 (以下 HA) 装用下の最高語音明瞭度が50%以下の高度難聴例に対しても適応が拡大された. これにより, 今まで HA 装用効果が不十分であった進行性難聴を含む両側高度難聴例や左右差のある高重度難聴例に対しても CI によるシームレスな補聴が可能となった. 高度難聴に対する CI の有用性は世界で多く報告されている. HA と CI の適応境界については議論の余地があるものの, HA 装用下の語音聴取能は CI による語音聴取能改善の予測因子として重要であり, 世界でも CI 適応基準として重視されている. また, CI に求められる効果が高度になるほど, 純音聴力検査や静寂下の語音明瞭度での評価には限界が生じる. 今後日本語における機能的アウトカムを含めた評価方法の確立が求められる. 新基準の導入に伴い, 高齢者に対する CI 手術も増加している. 高齢者に対する人工内耳では, 聴取能改善に加え, 認知機能や QOL に効果を及ぼす可能性が示唆されている. 高齢化社会において大きなインパクトを与えることが予想される. あらゆる聴力像に対して複数の選択肢が登場し, 切れ目のない聴覚補償が可能になりつつある. “きこえと QOL を維持する” ために CI を積極的に活用する時代が見えてきている.