著者
石井 夏生利
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.47-72, 2019-11-29 (Released:2019-12-23)
参考文献数
46

本稿では、プライバシー・個人情報保護法と周辺法領域との関わりについて、主に競争法との関係に着目した考察を行った。プライバシー・個人情報保護法が競争法に影響を与える場面では、①プライバシー・個人情報保護の価値を競争法の中で考慮すべきか否か、②規範的尺度としてプライバシーの価値を競争法に取り込む場合の理論的根拠、③ドイツFacebook競争法違反事件の評価(EU一般データ保護規則(GDPR)違反に基づく競争制限禁止法違反の認定、データ保護法の目的としての情報自己決定)、競争法が個人情報保護法に影響を与える場面では、④データ・ポータビリティ、⑤制裁金(課徴金)導入の是非を論点に掲げた。競争法の中で考慮すべきプライバシー・個人情報保護の主たる価値は、本人の同意、選択ないしは情報自己決定と見ることができる。他方、GDPRにおける「同意」と日本の個人情報保護法の「同意」は有効性の要件が異なる。また、企業結合事案では、個人情報保護法に基づく個人データの第三者提供は同意がなくとも適法である一方で、GDPRに同旨の規定は存在しない。GDPRは同意の要件が厳格であるため、同意の有効性が問題とされる競争法違反事件では、GDPR違反の認定がなされやすいと考えられる。GDPRと個人情報保護法の法制度及び解釈上の違いに留意すべきである。企業結合事案及びデータ・ポータビリティ権の文脈では、事業者間でのデータ移転の是非に関して、競争法と個人情報保護法の役割分担が問題となる。EUの議論を概観する限りでは、両法は相互に関連性を有する場合もあるが、原則として独立に評価される。そして、問題となるデータに個人情報が含まれる場合は、個人情報保護に関する適法性を担保した上で、それでもなお競争法上の違法を構成する場合があるか否かを検討すべきといえる。競争法と個人情報保護法は、協調できる場面と対立する場面があり得るため、両者の役割分担には分析的な検討を要する。日本の個人情報保護法改正論議の1つとして課徴金導入の是非が検討されている。課徴金の制裁的色彩を強調するならば、個人情報保護法に課徴金を導入することも不可能ではなく、その際には先行する国内外の競争法の趣旨及び内容から多くの示唆を受けることが予想される。競争法及びプライバシー・個人情報保護法の交錯に関する考察を深めるためには、消費者保護法からの検討も必要である。

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https://t.co/CCAZG8ncZZ か https://t.co/6mmFuBG6JD あたりを引用してきたのかな? https://t.co/8lpLffN4SD

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