著者
石井 夏生利
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.271-285, 2015-07-01 (Released:2015-07-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

本稿は,「忘れられる権利」をめぐる一連の議論から明らかになった論点と,今後の課題を論じることを目的とする。具体的には,グーグルに検索結果からのリンク削除を命じた欧州司法裁判所の判決,英国貴族院の報告書,第29条作業部会の指針,グーグルの諮問委員会意見書の概要,および日本のヤフーが公表した有識者会議報告書および同社の対応方針を取り上げた。欧州司法裁判所の判決は,EUと米国のプライバシー保護に関する対立軸の中で下されたものであり,権利者保護に偏った判断といわざるをえない。同判決の判断基準が日本の法解釈に大きな影響を与えるともいいがたい。また,過去の情報の暴露は古典的なプライバシー侵害の問題であり,「忘れられる権利」は過去の議論の延長線上の問題としてとらえるべきである。他方,本判決およびその後の一連の議論は,検索エンジン事業者に削除基準を検討させる契機を与えるとともに,表現の自由や知る権利との関係で,削除した旨をWebサイト管理者や検索エンジン利用者に通知すべきか否か等の問題を提起した点において意義が認められる。
著者
溝上 智惠子 清水 一彦 歳森 敦 池内 淳 石井 啓豊 逸村 裕 植松 貞夫 宇陀 則彦 永田 治樹 長谷川 秀彦 石井 夏生利 呑海 沙織 孫 誌衒 松林 麻実子 原 淳之 井上 拓 佐藤 翔
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、大学教育の実質化を進展させるための学習支援サービスの1つとして、大学生の主体的学習を促進させる実空間「ラーニング・コモンズ」 (Learning Commons)に着目し、その現状と課題を明らかにした。1990 年代に、北米地域から導入・整備が始まったラーニング・コモンズは、現在各国の高等教育改革や大学図書館の状況を反映して、多様な形態で展開しつつあること、学習成果の視点からの評価はいずれの国でもまだ不十分な段階にあることが明らかになった。
著者
石井 夏生利
出版者
情報法制学会
雑誌
情報法制研究 (ISSN:24330264)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.11-27, 2017 (Released:2019-10-02)

This article overviews laws and recent developments on protecting privacy and personal data in Canada, so that contribute to the future discussion in Japan. Canada has developed its own privacy and personal data protection system in line with respecting the efforts taken by the European Union and the United States. Privacy by Design, advanced by Dr. Ann Cavoukian, has been acknowledged worldwide. I have dealt with these surroundings on privacy and personal data protection in Canada in this article. The challenges which can be found from overviewing Canadian legislations are, for example, the limitations of Ombudsmen authorities both in the federal and the provincial level; the need for obliging Privacy Impact Assessments and data breach notifications; the issue on the jurisdiction between the federal law and provincial laws; data localization provisions enacted in a specific province, the concern about the “adequacy decision” made by the European Commission. Privacy by Design has played an important role to heighten the international presence of Canada, done by its special efforts. It has become well known also among Japanese stakeholders. However, we have not only to understand the notion of Privacy by Design, but also to consider how to implement the foundational principles. Trying to solve the domestic issues along with harmonizing the international developments is the common need both in Canada and Japan. It is necessary to continuously look at discussions in Canada because they are instructive for Japanese discussions.
著者
石井 夏生利
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.11, pp.472-477, 2021-11-01 (Released:2021-11-01)

本稿は,インターネット上の個人情報,プライバシー侵害情報等の削除に関する国内外の議論動向を概観し,今後の検討課題を示すことを目的とする。個人の権利利益を侵害する情報を削除するための法的手段について,国内外の動向を整理した上で,「忘れられる権利」を巡るEU(European Union)の議論動向として,欧州司法裁判所(Court of Justice of the European Union)の諸判決及び一般データ保護規則(General Data Protection Regulation)の規定を取り上げ,「忘れられる権利」を巡る国内の議論動向として,検索結果削除に関する裁判例及び個人情報の保護に関する法律の改正に触れた上で,解釈上及び制度上の課題を述べる。
著者
石井 夏生利
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.47-72, 2019-11-29 (Released:2019-12-23)
参考文献数
46

本稿では、プライバシー・個人情報保護法と周辺法領域との関わりについて、主に競争法との関係に着目した考察を行った。プライバシー・個人情報保護法が競争法に影響を与える場面では、①プライバシー・個人情報保護の価値を競争法の中で考慮すべきか否か、②規範的尺度としてプライバシーの価値を競争法に取り込む場合の理論的根拠、③ドイツFacebook競争法違反事件の評価(EU一般データ保護規則(GDPR)違反に基づく競争制限禁止法違反の認定、データ保護法の目的としての情報自己決定)、競争法が個人情報保護法に影響を与える場面では、④データ・ポータビリティ、⑤制裁金(課徴金)導入の是非を論点に掲げた。競争法の中で考慮すべきプライバシー・個人情報保護の主たる価値は、本人の同意、選択ないしは情報自己決定と見ることができる。他方、GDPRにおける「同意」と日本の個人情報保護法の「同意」は有効性の要件が異なる。また、企業結合事案では、個人情報保護法に基づく個人データの第三者提供は同意がなくとも適法である一方で、GDPRに同旨の規定は存在しない。GDPRは同意の要件が厳格であるため、同意の有効性が問題とされる競争法違反事件では、GDPR違反の認定がなされやすいと考えられる。GDPRと個人情報保護法の法制度及び解釈上の違いに留意すべきである。企業結合事案及びデータ・ポータビリティ権の文脈では、事業者間でのデータ移転の是非に関して、競争法と個人情報保護法の役割分担が問題となる。EUの議論を概観する限りでは、両法は相互に関連性を有する場合もあるが、原則として独立に評価される。そして、問題となるデータに個人情報が含まれる場合は、個人情報保護に関する適法性を担保した上で、それでもなお競争法上の違法を構成する場合があるか否かを検討すべきといえる。競争法と個人情報保護法は、協調できる場面と対立する場面があり得るため、両者の役割分担には分析的な検討を要する。日本の個人情報保護法改正論議の1つとして課徴金導入の是非が検討されている。課徴金の制裁的色彩を強調するならば、個人情報保護法に課徴金を導入することも不可能ではなく、その際には先行する国内外の競争法の趣旨及び内容から多くの示唆を受けることが予想される。競争法及びプライバシー・個人情報保護法の交錯に関する考察を深めるためには、消費者保護法からの検討も必要である。
著者
石井 夏生利
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー
巻号頁・発行日
vol.4, pp.E17-E45, 2012

本稿の目的は、個人情報が商品価値を伴ってネットワークを流通しているという実態を受け、個人情報の「財産権」の可能性を理論的に考察することにある。この問題は、ライフログをめぐる種々の論点の中でも原理的な性質を有する。検討に際しては、アメリカにおける個人情報の財産権論について、歴史的発展過程から、「第1期 伝統的プライバシー権の発展期(1890年~1960年頃)」、「第2期 現代的プライバシー権・法と経済学の提唱期(1960年代後半~1980年頃)」、「第3期 情報プライバシーとサイバースペース論議の発展期(1990年代後半~2000年代半ば頃)」に区分し、各時代の議論状況を検討した。その上で、適宜日本の文献を引用しつつ、筆者なりの視点から財産権論に対する問題提起を行い、自らの見解を明らかにした。