著者
熊谷 晋一郎
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.322-334, 2016 (Released:2018-12-20)
参考文献数
66
被引用文献数
1

自閉スペクトラム症の疫学研究や歴史社会学的研究をふまえると,診断基準の中にある社会的コミュニケーション・相互作用という概念が,本来,地域性や時代性に応じて揺れ動くinter-personalな現象を,永続的でintra-personalな現象に誤認させ得ることが示唆される。社会関係以前に存在する個体側の永続的な身体特徴は,自閉スペクトラム症といっても個々人で多様である可能性が高いため,ケースごとに個体の不変項を抽出する必要がある。そうした目的の下,我々は自閉スペクトラム症の診断を持つ綾屋と8年にわたる当事者研究を行ってきた。その結果,1)内臓感覚に由来する長期的目的の下で,行動を制御したり,記憶の取捨選択やsystem consolidationを遂行することの困難や,2)外受容感覚と統合されずに強度を増した内臓感覚によって,自他感情の認知や内発的意図を構築することの困難,感覚過敏や鈍麻,予測誤差への敏感さなどが生じている可能性が示唆された。当事者研究は,多様なimpairmentを記述するディメンジョンの候補を提起するという学術的な意義だけでなく,自分の通状況的な不変項を自ら把握することで本人のウェル・ビーイングに貢献する可能性がある。

言及状況

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熊谷さんの論文が見つかりました。 社会的文脈に障害や生きづらさを位置付ける →よりよく生きる 自閉スペクトラム症の研究において地域性・時代性に依存するdisabilityと個体側のimpairmentを区別することの重要性 https://t.co/x1JsDUTiy5

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