著者
熊谷 晋一郎 向谷地 生良 加藤 正晴 石原 孝二
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-06-28

当事者研究には、他の研究と同様、新しい知識を「発見」するための方法という側面と、生きやすさをもたらす「回復」の側面がある。まず発見については、自閉スペクトラム症のメカニズムに関して当事者研究の中で提案された「情報のまとめあげ困難説」を、他分野の専門家と協力しながら理論的に精緻化した。またその仮説を、発声制御、顔認知、パーソナルスペース、ボディイメージ、聴覚過敏や慢性疼痛などに適用して検証実験を行った。次に回復については、横断調査、追跡調査によって効果検証を行うとともに、当事者研究の方法をプロトコール化し、当事者主導型の臨床研究による介入研究を行った。
著者
熊谷 晋一郎
出版者
University of Tokyo(東京大学)
巻号頁・発行日
2014

審査委員会委員 : (主査)東京大学教授 児玉 龍彦, 東京大学教授 福島 智, 東京大学教授 中邑 賢龍, 東京大学准教授 巖淵 守, 東京大学准教授 金生 由紀子, 東京学芸大学教授 藤野 博
著者
熊谷 晋一郎
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.322-334, 2016 (Released:2018-12-20)
参考文献数
66
被引用文献数
1

自閉スペクトラム症の疫学研究や歴史社会学的研究をふまえると,診断基準の中にある社会的コミュニケーション・相互作用という概念が,本来,地域性や時代性に応じて揺れ動くinter-personalな現象を,永続的でintra-personalな現象に誤認させ得ることが示唆される。社会関係以前に存在する個体側の永続的な身体特徴は,自閉スペクトラム症といっても個々人で多様である可能性が高いため,ケースごとに個体の不変項を抽出する必要がある。そうした目的の下,我々は自閉スペクトラム症の診断を持つ綾屋と8年にわたる当事者研究を行ってきた。その結果,1)内臓感覚に由来する長期的目的の下で,行動を制御したり,記憶の取捨選択やsystem consolidationを遂行することの困難や,2)外受容感覚と統合されずに強度を増した内臓感覚によって,自他感情の認知や内発的意図を構築することの困難,感覚過敏や鈍麻,予測誤差への敏感さなどが生じている可能性が示唆された。当事者研究は,多様なimpairmentを記述するディメンジョンの候補を提起するという学術的な意義だけでなく,自分の通状況的な不変項を自ら把握することで本人のウェル・ビーイングに貢献する可能性がある。
著者
石原 孝二 信原 幸弘 河野 哲也 鈴木 晃仁 北中 淳子 熊谷 晋一郎 糸川 昌成 石垣 琢麿 笠井 清登 向谷地 生良
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は4 つの研究領域①生物学的精神医学および認知行動療法の展開による疾患観の変化、②精神疾患症状の現象論的・行為論的・認知哲学的把握、③診断の歴史と科学論、④当事者、家族、支援者の視点:地域社会論と障害学からの検討を設定し、各領域の研究を通じて精神疾患概念の再検討と「精神医学の科学哲学」の展開をはかった。研究の成果は15本の論文と59回の学会等の発表・講演、国際会議Tokyo Conference on Philosophy of Psychiatryの実施などを通じて発表されている。また、本研究の集大成として、全3巻のシリーズ書籍「精神医学の哲学」(仮題)を刊行する予定である。
著者
熊谷 晋一郎
出版者
日本オーラル・ヒストリー学会
雑誌
日本オーラル・ヒストリー研究 (ISSN:18823033)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.93-100, 2012-09-08 (Released:2018-12-10)

本稿では、6年にわたる綾屋紗月(フォーラム第3回セッションのもう一人の話題提供者)との当事者研究の内容を踏まえながら、当事者研究とはなんであるか、そして、本人や学知に対してどのような意義を持っているのかについて述べる。
著者
熊谷 晋一郎
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.532-544, 2017 (Released:2017-11-28)
参考文献数
68

目的:自閉スペクトラム症の概念は純粋なインペアメントではなくディスアビリティを記述しているために,社会的排除の個人化を通じて有病率が大きく影響するだけでなく,医療モデルに基づく社会適応が支援の目標とされる状況が続いている.社会モデルに基づく自閉スペクトラム症者に対する支援を実現するために,本研究では,コミュニケーション障害を個人のインペアメントではなく,情報保障の不十分と読み替え,個々人に固有のインペアメントの探求と,インペアメント理解を踏まえたうえでの情報保障の探求の 2 点を目的とする.方法:2008年以降,自閉スペクトラム症の診断を持つ綾屋とともに,本人固有のインペアメントを探究する当事者研究を継続的に行ってきた.研究では,綾屋の主観的経験の中に立ち現れる,通状況的なパターンの抽出と,1回性のエピソードの物語的統合の 2 つに取り組み,後者に関しては2011年以降,綾屋と類似した経験をもつ当事者との研究を継続して行った.また,2012年以降は,当事者研究で提案されたインペアメントに関する仮説を検証する実験も並行して行った.結果:情報保障に関連したインペアメントには,音声や文字といった記号表現や,事物の認識におけるパターン化の粒度が,定型発達者よりも細かいという点が重要だとわかった.情報保障の具体例としては,音声の伝達場面ではパソコンや手話の使用,残響の生じない部屋,同時発話のないコミュニケーション様式,短い面談時間と面談での筆記用具の持ち込みなど,文字の伝達においてはコミックサンズというフォントの使用,文字の大きさや行間の調整,光沢のない紙の使用,文字の背景色を薄茶色にするなど,そして全般的に同期的マルチモーダルな情報提示が有効であった.また事物の認識に関しては,音声言語と日本語対応手話の同期的マルチリンガル情報提示や,事後的な「意味づけ介助」が有効だった.結論:自閉スペクトラム症と診断される人々のインペアメントは異種混淆的なので,一人一人に合った情報保障の在り方も多様性がある.したがって,本研究の方法を参考にし,個別の対象者と当事者研究を行うことが望ましい.
著者
和家 尚希 佐野 祐子 相宅 玲志 住谷 昌彦 熊谷 晋一郎 國吉 康夫
出版者
バイオメディカル・ファジィ・システム学会
雑誌
バイオメディカル・ファジィ・システム学会大会講演論文集 : BMFSA
巻号頁・発行日
no.27, pp.9-10, 2014-11-11

Following amputation, patients often report severe pain in the vivid phantom awareness of their lost limbs, which is called as phantom limb pain (PLP). Some researchers have treated PLP with providing the visual images of the lost limbs to the patients by using a mirror. We extended this paradigm to the multimodal (visual, auditory and tactile) Virtual Reality (VR) system to provide more efficient images of the phantom limb. We applied this VR system to 4 PLP patients in two different tactile conditions for 5 minutes respectively. The following findings were obtained: 1) PLP improved immediately after the VR training; and 2) Affective pain characteristics ameliorated greater than sensory pain characteristics; and finally 3) Tactile feedbacks on the healthy limb had inverse effects for the acquisition of voluntary movements of the phantom limb. These preliminary results show that we have achieved a milestone toward the neurorehabilitation platform system for PLP.
著者
熊谷 晋一郎 綾屋 紗月 武長 龍樹 大沼 直紀 中邑 賢龍
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.234-242, 2013-06-30 (Released:2013-12-05)
参考文献数
32

要旨: 本研究では一般大学生を対象に, カルファの聴覚過敏尺度日本語版 (6件法) による質問紙票調査を行い, スコアの平均は16.9点, 標準偏差は11.6点で, 上位5%のカットオフ値はおよそ40点であること, さらに聴覚過敏尺度が 「選択的聴取の困難」 「騒音への過敏と回避」 「情動との交互作用」 の3因子構造を持つことがわかった。また, 聴力異常の既往, 抑うつ症状, 性別, 顔面神経麻痺などよりも, 「不安症状」, 「睡眠障害」, 「頭頸部手術の既往」 の3つの危険因子が有意に聴覚過敏と相関していることが明らかとなった。また重回帰分析の結果, 前2者は各々独立に聴覚過敏と相関していた。このことは, 聴覚過敏を主訴とする患者の診療において, 不安障害や睡眠障害の合併に目を向けることと, 頭頸部手術後のフォローアップにおいて聴覚過敏に目を向けることの重要性を示唆している。