著者
亀山 佳明
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.3-20, 2013-03-20 (Released:2016-08-04)

E.コッブの『イマジネーションの生態学』は洞察に満ちた魅力的な書物である。その内容は二つに要約できるであろう。ひとつは、潜伏期の子どもたちはその旺盛なイマジネーションを使って、見るもの・聞くもの・触るものに〈なる〉のであるが、それは「世界づくり」という創造活動でもある、ということ。もうひとつは、そこで養われた創造力は子どもから大人になるときに要求される、個性的人格を形成するさいに必要な創造性を左右する、ということ。これら二つの洞察を説明するコッブの方法には理解しにくいところがある。そこで、コッブとは異なった説明の方法を導入することで、以上の二つの洞察を生かす道を探ってみた。身体の生成論という立場から、次のように解釈してみよう。 第一の問題について。ベルクソンの記憶論を修正して、イマジネーションという概念をこう定義する。世界において知覚・行動するには記憶と身体とが合体する必要があるが、子どものイマジネーションにおいては、半―記憶と半―身体とが合体する、と。このために、子どもが〈なる〉ことができるのは、想像する主体と想像された対象とが相互に浸透し合って、そこに世界を成立させるからである。彼らは次々に世界を創造し、それらを生きることになる。 第二の点について。イメージと知覚・行動が一体化するということは、主体のリズムと対象のリズムとが共鳴することでもある。二つの異なった波長をもつリズムが共鳴すると、そこには第3の波長が生じる。「世界づくり」とはこの第3の波長を生じさせることである。子どもたちがその作業を繰り返すなら、彼らのうちに創造性の源となる基盤が形成されることになる。子どもたちが大人になるときに要求される個性的な人格の創造も、この基盤を通して達成されると思われる。従って、もしもこの基盤が貧弱であったとするならば、人格の創造は困難にならざるを得ないことになる。

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