著者
アンドリュー・ ベルナール 倉島 哲
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.25-53, 2018-09-30 (Released:2019-09-30)
参考文献数
60

サーカス・パフォーマーの運動をコントロールするのは誰なのだろうか。空中のアクロバットは、無意識のうちに全身を協調させることで、パートナーに掴んでもらうべく正確に手を伸ばすことができるが、これは周辺視野にかすかに捉えた情報だけを頼りに行われている。そのうえ、視覚それ自体も、意識的にコントロールされるのではない。アクロバットは、意思によらずに視線を導き、パートナーとの視線の相互的なコンタクトを運動中も維持しつづけることができるからである。 両眼をも含めた全身の高度な協調が意識なしに可能なのは、生ける身体(living body, corps vivant)のおかげである。前意識的かつ前運動的な生ける身体は、刻々と変化する状況にエコロジカルに適応するために必要な判断を瞬間的に下してくれる。だが、こうした判断は、脳の活性化(activation)と意識によるその知覚を隔てる450ミリ秒の遅延のために、つねに事後的にしか意識に上らない。それに加えて、主観的な身体イメージや、日常的な意識のフレームなどの要因も、生ける身体を見えにくくしている。 われわれが2013年に開始したフランス国立サーカス芸術センター(CNAC)研究プログラムは、こうした困難を乗り越えるために、身体に取り付けたGoPro カメラ・GoPro 録画を用いた自己分析(self-confrontation)インタビュー・パフォーマーを巻き込んだ哲学ワークショップの開催などを含む様々な方法を用いた。そうすることで、パフォーマーたちの生ける身体が運動のさなかに無意識のうちに生成したものの意識への浮上、つまりエメルジオン(emersion, émersion)を捉えることができた。これを踏まえ、最後にエメルジオンの学としてのエメルシオロジー(emersiology)の可能性とその社会的含意を考察したい。

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