著者
橋本 倫明
出版者
経営哲学学会
雑誌
経営哲学 (ISSN:18843476)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.17-28, 2021-04-30 (Released:2021-07-22)
参考文献数
22

2015年に適用が開始された日本版コーポレートガバナンス・コードは企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図るため、とりわけ独立社外取締役の積極的な登用を促してきた。これにより、日本での独立社外取締役の選任は急速に進んだ。さらに、2018年6月のコード改訂に伴い、経営者の選解任や報酬決定プロセスへの独立社外取締役の十分な関与が求められ、この数年で多くの企業が独立社外取締役中心の指名委員会や報酬委員会を設置した。しかし、企業の持続的な成長や中長期的な企業価値の向上を実現するためには、独立社外取締役の果たす役割だけでは不十分であるとともに、独立社外取締役の役割を過度に強調してきたことが、形式だけの登用やそのなり手不足といった問題を引き起こしてきた可能性もある。本稿では、ダイナミック・ケイパビリティ論に基づくコーポレートガバナンス論を展開し、これらの独立社外取締役に関連する問題を解決して、変化の激しい今日のビジネス環境において日本企業の持続的な成長を実現するために必要なコーポレートガバナンスの新たな指針を示す。その帰結は以下の通りである。(1)エージェンシー理論に基づけば、独立社外取締役の積極的な活用は、従来の日本のコーポレートガバナンスの主要課題であったインセンティブ問題を解決するための有用な方策である。しかし、(2)変化の激しい環境ではインセンティブ問題の解決は企業の持続的な成長を保証せず、企業活動を正しい方向に向かわせる経営者のダイナミック・ケイパビリティ活用を促すことが取締役に求められる最大の役割である。(3)その実現には独立社外取締役に過度な役割を与えるのではなく、企業の内部事情や業界に精通しマネジメント経験も持つ社内取締役も積極的に活用することが求められる。したがって、社内取締役と社外取締役の適切なバランスについての議論が、今後の日本企業のコーポレートガバナンスの最重要課題となる。

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