- 著者
-
小川 正
- 出版者
- 日本神経回路学会
- 雑誌
- 日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
- 巻号頁・発行日
- vol.26, no.3, pp.62-71, 2019-09-05 (Released:2019-10-31)
- 参考文献数
- 35
- 被引用文献数
-
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本稿では,視覚探索を行うときに機能する注意の神経機構とその情報処理について述べる.現実世界の視覚環境は複雑であるため,外界を理解するためには眼球運動によって視線をスキャンさせ,詳細を知りたい物体に視線を向ける視覚探索が必要となる.注意には,外界から入力された感覚情報などにもとづいて起動される「外因性のボトムアップ型注意」と,知識・意図などの脳内情報にもとづいて起動される「内因性のトップダウン型注意」があり,これらの注意機能は生体にとって重要と思われる視覚情報を選択することによって合目的な視覚探索行動を可能にしている.大脳皮質において眼球運動系の上位中枢であるLIP野(the lateral intrparietal area)やFEF野(the frontal eye field)はトップダウン型注意の上位中枢であり,注意と眼球運動の神経機構は密接にかかわっている.視覚探索では時間経過とともに必要な神経情報処理が「注意による目標選択」から「目標に向かうサッカード眼球運動の生起」へと変化すると考えられるが,実際に視覚野であるV4野(visual area V4)において前者を反映したニューロン活動から後者を反映したニューロン活動へと神経情報がダイナミックに変化していることを示す研究知見を紹介する.さらに,ニューロン活動においてそのような時間ダイナミクスを生み出すと考えられる視覚運動野(LIP野,FEF野など)から視覚野(V4野など)への神経フィードバック経路について考察する.