- 著者
-
熊崎 博一
- 出版者
- 日本精神保健・予防学会
- 雑誌
- 予防精神医学 (ISSN:24334499)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, no.1, pp.25-32, 2019 (Released:2020-12-01)
- 参考文献数
- 30
DSM-5(APA-2013)にて、感覚過敏や感覚刺激に対する低反応といった感覚の問題が初めて自閉スペクトラム症の診断基準の一つに取り上げられたことで、感覚の問題はさらに注目されることとなった。近年感覚の問題の中でもASD者の嗅覚は急速に注目を集めている。嗅覚の機能は、危険認識(食物の腐敗・煙・ガスから守る)、生殖活動の誘発(フェロモン)、興奮や鎮静(アロマ)、食事の好き嫌い・食欲、気分、自律神経・内分泌・免疫と多岐にわたっている。ASD児では感覚調節障害児や発達遅滞児、ADHD児と比べて嗅覚特性の重症度が高いとの報告があり感覚の問題の中でも嗅覚の問題はASD児にとってより本質的である可能性がある。現在までの実験室条件における研究では、1)香料の量の調節が難しく多量に嗅ぐために徐々に順応し濃度差を感じなくなる、2)空間に香りが残留するため徐々に嗅覚が麻痺してくることもあり、3)感度が低い、といった問題があった。また手間と時間がかかる問題もあり、幼児に行うことも困難であった。においの中でも体臭がASDの病態に関わることを示唆している報告がある。ASD者の嗅覚特性を把握し、特性に基づいた支援を行うことが望まれている。