著者
植田 純生 磯田 豊
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.47-69, 2022-05-15 (Released:2022-05-15)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

日本海の内部領域では惑星β面上の南北水温勾配を伴う東向き表層流 (対馬暖流) が年正味の海面熱損失と南方からの水平熱輸送との熱バランスによって維持されている。このような海盆スケールの表層流は温度風平衡を満たし,西岸境界で湧昇,東岸境界で沈降を駆動して,中層もしくは底層を経由するオーバーターニング循環(鉛直循環)を発達させる。日本海の高塩分中層水 (High Salinity Intermediate Water: HSIW) は極微細な塩分極大を示す水塊であり,塩分極小である日本海中層水 (Japan Sea Intermediate Water: JSIW) の下方,深度500 ~700 m 付近に位置している。HSIW は北海道沿岸沖の対馬暖流による流入高塩分水を起源とし,これはオーバーターニングによる東岸境界の沈降に対応する。2009 年の夏季,HSIW に繋がる高塩分の大規模な表層混合層が観測され,ベンチレーション (換気) の直接的な証拠が捉えられた。ところが2010 年代に入り,急速に低塩化するJSIW がHSIW を上方から蓋をする状態が継続した。本研究ではHSIW の時間変化を追跡できる有用な生物化学トレーサーとしてPreformed PO4 (PO40) を提案する。JSIW 内のPO40 は枯渇状態の表層PO40 との活発な混合を示し,JSIW は毎冬の更新が示唆された。その一方で,HSIW 内のPO40 はJSIW からの鉛直拡散の影響を受けて減少しつつも極大構造を維持していた。おそらく,HSIW を更新する大規模なオーバーターニングは間欠的にしか起こらず,その間隔は数年以上離れていることが推測される。

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