著者
小笠原 道雄
出版者
教育哲学会
雑誌
教育哲学研究 (ISSN:03873153)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.53, pp.6-12, 1986-05-10 (Released:2010-05-07)
参考文献数
16

一般に、どのような学問領域にとっても、学説史は現在の学問のあり方を考える上で欠かすことのできない研究領域である、と考えられている。すなわら、ある学問にとって重要な問題設定が何であるかについて、少なくとも、その学問の理論の伝統への観点を提示するものだからである。しかし、わが国においては、本格的な教育学説史研究の蓄積が乏しいこと、否、教育研究の中での位置づけが不明確である点、さらには、教育学の研究者に学説史研究の意義が十分に意識されていない点を指摘せざるをえない。もとより、教育学説史の対象は、教育理論の伝統への観点という本来過去の教育の理論体系であって、われわれが現在の関心から主観的に解釈してよいものではない。過去の教育思想家、教育理論家が問題とした歴史的所与を含めて、すなわち史料的考証によってわれわれは厳密に客観的であるよう心掛けなければならないであろう。このような認識に立って、本課題の「学説史研究の立場から教育思想研究」を考えれば、広く、 (一) 、学説形式の背景、つまりそれぞれの時代についての教育思想 (家) の当面した〈状況〉をまず見ること、 (二) 、教育を論ずるに当たって用いられてきた〈用語〉や〈概念〉に注意を払い、その形式や意味内容の〈変化〉を跡づけること等が指摘されよう。従って、学説史研究では、思想、理論両者の往復運動 (思想の理論化、理論の思想化) に注意を払いつつ、教育認識の自覚的展望を焦点化することになる。さらに、「方法論的検討」といった視座からは、理論形成の歴史的状況を視野に入れつつ、理論に対する思想の役割を鮮明にする方法、思想と理論両者の往復運動のあり方 (方法) をどのようなものとして自覚し、把握するか、といった問題等が考えられよう。これらの諸問題をドイツにおける「科学的教育学」の形成を中心に、とりわけ「一般教育学」 (Allgemeine Pädagogik) における “Allgemeine” 概念の歴史的変容を事例にし、学説の体系性と歴史性とを指摘し、教育哲学における思想研究の意味を考察したい。

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