- 著者
-
萩原 淳
- 出版者
- 日本政治学会
- 雑誌
- 年報政治学 (ISSN:05494192)
- 巻号頁・発行日
- vol.69, no.1, pp.1_70-1_95, 2018 (Released:2021-07-16)
- 参考文献数
- 38
本稿の目的は, 昭和初期テロ事件の司法過程を, 減刑嘆願運動の展開及び, 運動を契機とした政治勢力からの圧力に対して司法部・陸海軍がどのように司法権の運用を行ったのかという視点から分析し, 一連のテロ事件をめぐる司法部・陸海軍の司法権の実態と人心の変化を明らかにすることである。 本稿の結論は主に次の2点である。第1に, 五・一五事件の陸海軍側公判開始後, 減刑嘆願運動は初めて全国的運動となったが, 海軍側判決後には停滞した。以後, 運動の主体は国家主義団体に移り, その性質も相沢事件後には皇道派による公判闘争へと変化したことである。第2に, 司法部の動向を陸海軍との比較の上で分析を行い, 五・一五事件において海軍側は当初, 法に基づく刑罰を科そうとした。しかし, 論告反対運動と加藤寛治らの圧力を受け, 陸軍と同様, 寛大な判決が下された。一方, 司法部は減刑嘆願運動や他の政治勢力の動向からの相対的自立を模索し, 概ね法に基づき対処したことである。